この記事は2025年6月2日に掲載された情報となります。
写真提供:道総研 エネルギー・環境・地質研究所
道総研 エネルギー・環境・地質研究所
自然環境部 生態系管理グループ
山口 沙耶さん
アライグマによる農業被害が増えるのは夏から秋の収穫期。道総研の山口さんは「リスクの低減には春期の捕獲が効果的」と話します。
すぐに取り組めるのは柵の設置
—アライグマによる農業被害は増えているのでしょうか?
北海道の公表データによると2023年度の農業被害は約1.7億円です。それまでは1.4億円前後で推移していたので急増といえます。
被害の約4分の1を占めるのはスイートコーンで、果菜類や果樹の他、十勝や宗谷ではデントコーンやロールサイレージの被害も出ています。
自家消費用の家庭菜園を含めると被害はもっと深刻だと思います。
【対策】アライグマの行動を把握する
道内179市町村のうち167市町村でアライグマの生息が確認されています。北米原産なので寒さに強く、冬も夏場にたくわえた体脂肪で乗り切ることができます。まずは行動を把握することが大切です。


—農業被害を減らすには?
捕獲による個体数の削減と、柵の設置による侵入防止を併せて行うことをおすすめします。すぐに取り組めるのは柵の設置でしょう。
作物などへのアクセスを物理的に制限することで、被害を抑えられます。樹脂ネット柵や電気柵、それらを組み合わせた複合柵もあります。
【対策】アライグマの特性を把握して柵を設置する
アライグマは登るのが得意なので1mほどの高さは余裕で乗り越えます。電気柵の場合、最下部は地面から10cmほどの高さにワイヤーを張らなければならず、下草の管理が大変。樹脂ネットの上部に電気のワイヤーが組み込まれた複合柵が便利です。
—柵はどのように設置したら良いですか?
アライグマは登るのが得意なので樹脂ネット柵の場合は、できるだけ丈夫なネットを高い位置まで設置しましょう。破れた箇所は定期的に補修してください。
電気柵は下からくぐり抜けられないよう、最下段のワイヤーを地面から高さ10cmほどにして、同程度の間隔で2〜3本のワイヤーを設置しましょう。
下草が伸びると漏電するので、草刈りや除草剤などによる管理が必要です。

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捕獲するなら夏より春に
—捕獲は自分でもできますか?
アライグマは夜行性なのでわなによる捕獲が㆒般的です。通常、わなの設置には狩猟免許が必要ですが、アライグマは特定外来生物なので、市町村で防除実施計画を作成している場合は、免許を持っていなくてもわなを設置できる場合があります。
使えるわなも計画によって違うので、お住まいの市町村にご相談ください。
—わなにはどのようなものがありますか?
箱わな、前肢拘束わななどがあります。扱いやすいのは箱わなで、林縁や草地、水路など、アライグマの通り道を探して、その脇に設置します。わなにかかった個体が暴れて箱が転がり、その反動で脱走してしまうことがあるので、平らなところに置き、ペグなどで地面に固定して、毎日、見回りましょう。
わな内の板を踏むと入り口が閉まる、踏み板式が普及していますが、キツネやタヌキ、近所の飼い猫がかかってしまう場合もあります。
レバーが指で引かれると入口が落ちる、手先の器用なアライグマの性質を利用したトリガー式箱わなもあるので、適宜、選択ください。
【対策】箱わなを置く
侵入ルートの脇に箱わなを置き、撒き餌(ドッグフードや圧ぺんコーンなど)で誘導。わなの奥に食わせ餌としてスナック菓子や揚げパンを置きます。酒粕やカンカイ(干物)を使う地域もあるようです。
—捕まえた後は?
市町村によりますが、役場や猟友会、地域おこし協力隊などが、捕獲された個体の処分に対応されています。自治体のルールに従ってください。
本来、特定外来生物を生きたまま運搬するのは法律で禁止されていますが、殺処分のための運搬であれば認められています。
—捕獲に適した時期は?
アライグマの繁殖期は3〜6月です。平均4頭出産し、毎年約1.5倍のスピードで増えるといわれています。
そのため、妊娠中や授乳中のメスを1頭捕獲すれば、5頭分の捕獲効果があり、食害の軽減や翌年の繁殖抑制につながります。北海道は「春期捕獲推進期間」として、春の捕獲に力を入れています。
—他に農業者が留意すべきことはありますか?
収穫残渣は動物にとって効率的に栄養摂取できる魅力的なエサになります。
間引きしたものを畑の端に山盛りにしていると動物をおびき寄せてしまうので、林縁付近など圃場の端を避けたり、作物と合わせて柵で囲うなどして、できるだけ早めに処分しましょう。
「北海道アライグマ捕獲プログラム」では捕獲の進め方などが整理されています。>>こちらからご覧ください。