農作物の被害はもちろん人身事故を防ぐ柵の設置を

キーワード:ヒグマ狩猟野生動物鳥獣被害
牧草地に現れたヒグマ
牧草地に現れたヒグマ
この記事は2025年6月2日に掲載された情報となります。
写真提供:道総研 エネルギー・環境・地質研究所

道総研白根ゆりさん

道総研 エネルギー・環境・地質研究所 自然環境部
生態系管理グループ 白根 ゆりさん

 

ヒグマによる農作物被害額は全体の5%ほど。思ったよりも少ないと感じるかもしれませんが、人身事故を防ぐ意味でも柵の設置が求められています。

 

被害の増加=個体数の増加とは限らない

—ヒグマによる農業被害にはどのようなものがありますか?

毎年の被害額の40〜60%を占めているのはデントコーンです。他にてん菜、スイートコーン、小麦、水稲、牧草などの被害もあります。農業被害は1970年代から増え続けており、ここ20年で2倍以上となっています。

—ヒグマが増えているのですか?

ヒグマの個体数は2022年末時点で全道1万2,200頭と公表されています※。渡島やオホーツク、十勝などではヒグマによる農業被害が増加していますが、他の地域と比べて必ずしも個体数が大きく増えているわけではありません。被害増加の背景には、デントコーンの作付面積の拡大も関係している可能性があります。

※北海道ヒグマ管理計画(第2期)改定

—ヒグマによる農業被害を減らすには?

捕獲と侵入を防ぐ対策をセットで進めましょう。食害個体を捕獲しても、別の個体が来れば被害はなくなりません。すぐに取り組めるのは、圃場に侵入させないための柵の設置です。

 

【対策】電気柵を適切に設置することが有効です

物理柵だと、ヒグマはよじ登ったり下を掘ったりして侵入してしまう場合があるので、最も有効なのは痛みを与える電気柵です。下をくぐることができないよう、最下段のワイヤーの高さは20cm程度にします。三段ワイヤーの外側に高さ30cm程度の一段ワイヤーを設置するのが効果的です。下草が伸びると漏電するので、除草剤や防草シートなども活用します。

電気柵を適切に設置することが有効です

 

ドローンで撮影したデントコーン畑
写真2.ドローンで撮影したデントコーン畑。森林に面した場所から被害が広がっていることが分かります。デントコーンは背が高く、人目を気にせず食べられるのでクマにとっては好都合。作付面積の拡大で被害に気付きづらくなっている面もあるかもしれません。

 

デントコーンをなぎ倒して食べる
写真3.ヒグマは手の届く範囲のデントコーンをなぎ倒して食べるので、上空から見ると写真2のように圃場に丸く穴が開いたようになります。

 

畑はクマにとってレストラン?

—圃場でヒグマに遭わないようにするには?

デントコーンのように丈の高い作物の場合、お互いの存在に気が付かずに接近してしまうことがあり、非常に危険です。圃場に入る前に爆竹やホイッスルを鳴らして人の存在を知らせましょう。

万が一、遭遇してしまったら、騒いだり走って逃げたりせず、ゆっくりと距離をとってください。心配なときはクマスプレーを携帯しましょう。

—ヒグマの被害に気づいたら?

いつどこで被害が起きているのかを把握しましょう。クマが昼に出没する場合は銃器を使えますが、夜しか現れない場合は箱わなしか使えません。

時間が経過した古い被害なのか、毎年被害を受けているのか、といった情報は、箱わなを仕掛ける場所を決める際の重要な手がかりです。

 

デントコーンを食べたヒグマのフン
写真4.デントコーンを食べたヒグマのフン

 

ヒグマに食害されたデントコーン
写真5.ヒグマに食害されたデントコーン

 

—農業被害を減らしつつ、ヒグマと共存していくためには?

ヒグマにとって農地は栄養価が高い食べ物が1カ所に集中している都合のいい場所です。いわばレストランみたいな存在かもしれません。

ですから畑にはおいしいものがあるということを学習させないためにも、侵入防止の対策を徹底していく必要があると考えています。

農作物を食べられるままにしておくと、ヒグマの栄養状態が良くなって、個体数の増加を助長する可能性がある他、ヒグマが人里周辺に長く滞在して人身被害につながる恐れもあります。

 

自動撮影カメラに映ったヒグマ
写真6.自動撮影カメラに映ったヒグマ
デントコーン畑の周辺で自動撮影カメラに映ったヒグマ。春はやわらかな草や昆虫、秋はどんぐりや山ぶどうなどを食べます。デントコーンが熟す8月頃は、森の中のエサが少なくなる時期でもあります。

 

—人身事故を防ぐ意味でも柵の設置が大事なんですね。

1カ所だけ囲っても隣の畑に行くかもしれないので、どのように柵を設置していくか、森林に近い農地には何の作物を配置するかも含め、地域全体で広域的に考える必要があるでしょう。