この記事は2025年6月2日に掲載された情報となります。
写真提供:道総研 エネルギー・環境・地質研究所
道総研 エネルギー・環境・地質研究所 自然環境部
生態系管理グループ 道東地区野生生物室
研究主幹 兼 室長 稲富 佳洋さん
野生鳥獣による農林水産業被害金額の8割以上を占めるのが、エゾシカによる被害です。どうしたら軽減できるのか専門家に聞きました。
被害は増加傾向
—エゾシカによる農業被害はどのような状況ですか。
2020年度から増加傾向です。釧路や十勝など酪農地帯で被害が多く、作物別では牧草被害が約4割を占め、最も高くなっています。
2023年度では次に多いのが水稲で、他に馬鈴しょ、てん菜、デントコーンなど。最近はりんごなど果樹の被害も報告されていて、被害を受ける地域や作物が多様化している印象です。
—エゾシカは増えていますか?
北海道では、道内を東部・北部・中部・南部の4つの地域に分けて計画をつくり、エゾシカの管理に取り組んでいます。北海道の発表では、南部を除いた推定生息数は73万頭です。
どの地域でも個体数は増加傾向で、過去最高水準に達したという指摘もあります。捕獲にも力を入れており、2023年度の捕獲数は、過去最多の15万7,000頭。にもかかわらず増えています。
—農業被害を減らすには?
柵の設置による侵入防止と、捕獲による個体数の削減、どちらも重要です。捕獲には免許や手続きが必要なので、すぐに取り組めるのは柵の設置でしょう。
電気柵・樹脂ネット柵・金網柵がありますが、いずれにしても定期的な管理が欠かせません。また、収穫残渣(ざんさ)はエサになりうるので、迅速に片付けることも大切です。森の中の植物よりも畑の作物の方が高栄養なので、㆒度覚えてしまうと繰り返しやって来るようになります。
—広い面積を柵で囲うのは大変ですよね。
まず、被害状況を把握しましょう。更新したばかりの草地など守るべき場所やリスクの高い場所など優先順位を明確にし、メリハリのある対策が必要です。
柵の見回りや補修など維持管理にかかる労力も考慮しなければなりません。あらかじめ担当者を決めて分業したり、見回りや補修を専門に請け負うスペシャリストを育成したり、地域全体で考える必要があります。
【対策】メスの捕獲が有効
エゾシカはオスを中心に複数のメスとハーレムを形成するので、オスを捕獲しても別のオスが入って産まれる子どもの数は変わりません。個体数を減らすにはメスの捕獲が有効です。
農業者とハンターで情報共有を
—エゾシカを捕獲する方法は?
銃器による捕獲と、囲いわな・箱わな・くくりわなによる捕獲があります。いずれにしても狩猟免許が必要です。免許がない場合は、ハンターの派遣について市町村に相談してください。
捕獲に際しては農業者とハンターが顔を合わせて情報交換する場が大切です。シカのいる場所に案内したり、捕獲後の回収や運搬を手伝ったり、ハイシート(射撃台)を用意したり、ハンターを支援する取り組みがあれば、捕獲も更に進むはずです。
【対策】柵の特性を知り、効果的に使いましょう!
柵はエゾシカが簡単に飛び越えられない高さが必要です(標準2.5m)。電気柵の場合は下をくぐられないようワイヤーを低い位置にも張ってください。
—捕獲はいつが良いですか?
エゾシカの狩猟期間は最長で10月から翌年3月末までです。しかしエゾシカは季節移動するので、冬に捕獲したシカが、圃場に出て加害していたシカとは限りません。
実際に被害を及ぼしているシカを獲るには、その時期や場所に応じて、有害鳥獣として「許可捕獲」を行ったほうが良いでしょう。
シカの被害で困っている圃場はどこか、ハンターはどこで捕獲を希望しているか、お互いに情報を共有する仕組みがあれば役立つのではないでしょうか。
【対策】柵はこまめにメンテナンス
樹脂ネット柵は破れた箇所の補修、電気柵は漏電防止のための下草刈りなど、こまめにメンテナンスをしないと十分な効果が望めません。
—農業被害を抑えつつ、エゾシカと共存していくためには?
今後、農業人口が減り、㆒人当たりの農地面積がさらに拡大すれば、エゾシカ対策の負担はより大きくなります。将来に向け地域全体で考えていく必要があるでしょう。
農地で捕獲されたシカを食肉等に活用し、収益の㆒部を農業者に還元する仕組みなども検討できるのではないでしょうか。
【対策】剪定した枝はしっかり処分!
食べるものが少ない冬に樹皮を食べられたりんごの木。果樹が枯死して大きな損害になることも。剪定(せんてい)した枝などは放置せず処分しましょう。