この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。
道総研 道南農業試験場 研究部
生産環境グループ 主査 青木 元彦さん
Profile:北海道大学大学院理学研究科生物科学専攻修了。北海道宗谷支庁、中央農試、上川農試を経て2016年から現職。
POINT
●UV-B照射と光反射シートの組み合わせで、いちごのうどんこ病とハダニ類の減農薬栽培が可能になります。
いちごの栽培では、うどんこ病とハダニ類は重要な病害虫です。近年、兵庫県で紫外光(UV-B)照射と光反射シートを組み合わせて両方同時に防除する技術が開発されました。その技術を北海道(道南農試)で検証しましたので紹介します※。
※試験は内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」(管理法人:農研機構生研支援センター)にて実施。
UV‐Bによる病害虫防除のメカニズム
UV-Bは波長280〜315nmの近紫外光です。人間では、日焼けを引き起こしますが、これを植物体に照射すると植物は病害に強くなります。
一方で、菌は生育が抑制されるので、病害発生を抑えることができます。また、ハダニ類は、UV-BにさらされるとDNAの損傷により死亡率が上昇します。そこで、光反射シートを用いていちごの葉裏にいるハダニ類にUV-Bを照射させ防除効果を確認しました。
試験は2017年から2年間、品種は「すずあかね」を使い高設・夏秋どり栽培の5.4m間口のハウスで実施(表1)。
UV-Bによる防除(以下、新防除)の照射時間は20時から23時の3時間とし(写真1)、薬剤防除を主とした慣行栽培(以下、慣行)と比較しました。
うどんこ病とハダニ類防除で大きな効果
①うどんこ病
2017年の試験で、慣行は初発が8月中旬で殺菌剤を5回散布、最大発病葉率は9.4%となりました。
一方、新防除では初発が慣行より1カ月以上も遅く、殺菌剤の散布無しでも最大発病葉率は1.3%にとどまりました(図1)。
また、2018年も慣行は殺菌剤5回散布となり最大発病葉率は6.1%でしたが、新防除は殺菌剤無散布にもかかわらず、うどんこ病の発病は認められませんでした。
②ハダニ類
2017年に慣行は6月上旬に初発し、8月中旬〜10月上旬にも発生を確認。殺ダニ剤を4回散布しました。
一方、新防除では8月中旬〜9月上旬まで発生が確認されたものの密度は上昇せず、殺ダニ剤無散布で対応可能でした(図2)。
2018年も慣行では殺ダニ剤を5回散布しましたが、新防除では初発時期が慣行より約1カ月遅くなり殺ダニ剤の散布も2回で済みました。
ほかの病害虫への影響と対応
灰色かび病の発病は慣行と同程度、アザミウマ類とアブラムシ類の発生は慣行と同程度〜やや多いです。これらは慣行同様の防除を実施します。
ヨトウガやコガネムシ類による葉の食害は、慣行より多くなりました。これらの発生が懸念される場合は、側窓や出入り口に4㎜目合以下の防虫ネット設置を検討してください。
規格内収量(1果重8g以上)や糖度(Brix)、果皮色は、慣行と同程度でした。
新防除に必要なUV-B電球などの初期投資は10a当たり約53万円。機器を5カ年維持する場合は年間約10万円となります。
UV-Bは目や肌などに悪影響が生じるので、照射中はハウスに近寄らないとともに、メーカーの注意事項を遵守してください。ほかの品種や作型で導入する場合は、試験栽培の実施が望まれます。
なお、UV-Bはハダニ類の天敵であるカブリダニ類に影響が少ないことが報告されていますので、カブリダニ類との併用は可能です。