この記事は2023年10月13日に掲載された情報となります。
カテゴリー:実証試験
実施年度:2018~2022年度(小麦)、2021~2022年度(てん菜)
実施:訓子府実証農場 農産技術課
協力関係機関:JAきたみらい(小麦)
POINT
●小麦・てん菜における可変施肥は肥料使用量の削減・生育の均一化に効果が期待される
●現場で活用できるよう、情報提供を進めている
衛星リモートセンシングの活用
可変施肥とは、土壌の地力や作物の生育状況に応じて肥料の散布量を自動的に調整する技術です。
ホクレン訓子府実証農場では、2018年度から小麦、2021年度からは直播てん菜に関する実証試験を実施してきました。
可変施肥には、人工衛星から植物の生育などを計測する「衛星リモートセンシング」を活用。
計測データから「正規化植生指数(NDVI)※」を計算し、植物の生育状態を見極めます。
その情報を基にパソコン上で作成された施肥マップ(図1)をUSBメモリーでトラクターなど農業機械に読み込み、施肥マップの位置情報と施肥量を紐づけることにより、場所ごとに肥料使用量を自動的に調整。生育の悪い部分には肥料を多く、生育の良い部分には肥料を少なく散布します(図2)。
※正規化植生指数(NDVI)とは
−1〜1の間で示され、植生が濃い場合にNDVIの値が大きくなります。
植生指数とは、植物による光の反射の特徴を生かし衛星データを使って簡易な計算式で植生の状況を把握することを目的として考案された指標で、植物の量や活力を表しています。
可変施肥の有効性を実証
可変施肥の試験を実施する背景としては次の2点があります。
- 2050年までに肥料使用量の30%削減を目指す「みどりの食料システム戦略」への対応。
- 肥料価格高騰対策。
試験では可変施肥によって施肥量を最適化することで、生産コストを下げ、安定生産を実現できるかを検証。取り組み事例の情報発信を進めています。
生産現場では可変施肥機の導入は進んでいるものの、十分に活用されていないという課題があります。情報提供を通じて可変施肥技術が広く普及し、有効活用してもらえるよう取り組んでいきたいと考えています。
生育のバラツキ解消や肥料削減に効果を確認
秋播き小麦の実証試験では、幼穂形成期と止葉期の追肥で、可変施肥及び定量施肥を実施。肥料散布量と生育や収量を比較しました。結果的に可変区では、施肥量を削減したにもかかわらず、穂数のバラツキが小さくなり、歩留まり向上の効果が見られました(表1・2)。
よって、過度なたんぱく含量の上昇を抑える効果が期待できます。
また、JAきたみらいが主催する講習会で実証試験の事例紹介や可変施肥の実演、JA所有の肥料散布機の精度確認に協力しました。
直播てん菜では、前作の秋播き小麦の生育データを基に、リン酸とカリは定量施肥と同量とし、窒素成分のみで基肥の可変施肥を実施しました。
その結果、可変区では、窒素の施肥量を削減しつつ定量区と同程度の糖収量を確保しました(表3)。
今後も続く実証試験
今後、秋播き小麦では、起生期からの追肥の全てで可変施肥を実施することで更なる生育の均一化を図ります。
また、てん菜は地力マップを利用し、その状況に沿って基肥の可変施肥を行いたいと考えています。
そして現在、新たな作物として馬鈴しょの基肥の可変施肥を検証中です。可変施肥のブロードキャスターの汎用性を高めることで、導入コストの低減を目指しています。