コムギ縞萎縮病に対する緑肥の効果検証

キーワード:コムギ縞萎縮病秋播き小麦緑肥
写真1縞萎縮病に罹患した小麦畑
写真1.縞萎縮病に罹患した小麦畑
この記事は2025年1月31日に掲載された情報となります。

 

カテゴリー:防除
実施年度:2018〜2022年度
実施:営農技術課

 

POINT
●緑肥の効果を可視化。

 

北海道の小麦生産をコムギ縞萎縮病から守るため

コムギ縞萎縮病は秋播き小麦における土壌伝染性のウイルス病の一つです(写真1)。

北海道では1990年代に初めて発生が確認されて以降、全道に拡大し、被害を生じ続けています。コムギ縞萎縮病の対策としては、抵抗性品種の利用が挙げられますが、需給等の要因から北海道の秋播き小麦の栽培面積の8割は感受性品種である「きたほなみ」が占めているのが現状です。

また、農家㆒戸当たりの作付面積が増加する中、労力の面や、需給環境による影響から、栽培品目として秋播き小麦が選択される傾向にあります。小麦が過作となり適正な輪作体系を保てなくなると、本病のような土壌病害の発生を助長してしまいます。

感受性品種の作付けを行う中で、被害を軽減できる可能性がある手法として、土壌中の病原体を減らす方法が考えられることから、その効果を検証しました。

 

コムギ縞萎縮病は微生物が媒介するウイルス病

コムギ縞萎縮病は、土壌中に棲息するポリミキサグラミニス(以下、ポリミキサ)という微生物が媒介するウイルス病です。

ポリミキサは耐久性の強い休眠胞子を形成し、土壌中でウイルスを保持したまま長期間生存できる特徴があります。

畑に小麦が作付けされると、休眠胞子から遊走子※という胞子が放出され、小麦の根に感染。その時にウイルスが媒介され、生育や収量に悪影響を与えます。

感染したポリミキサは、小麦の中で増殖し休眠胞子を形成します。小麦の収穫後、土壌に残った根が腐敗すると、休眠胞子が土壌中に放出されて分散し、次作の感染源になってしまいます。

※遊走子:べん毛をもち、運動性のある胞子。べん毛により水中を移動し、根に到達すると、べん毛が取れて宿主の細胞内に侵入する。数時間から1日程度しか生存できない。

 

イネ科緑肥の栽培による感染源の低減効果

土壌中の感染源を減らす方法として、緑肥の効果を検証しました。ポリミキサの休眠胞子から発芽した遊走子は、土壌中では短い期間しか生存できません。

ポリミキサはイネ科の植物を好むため、ウイルスや媒介者が増殖できないようなイネ科の緑肥を作付けし、休眠胞子の無効な発芽を促すことができれば、土壌中の病原体を減少させることができると考えられます。

これまでの研究で、本病の病原体は秋播き小麦の播種時期に活発に活動する傾向にあることが分かりました。

そこで、ホクレン長沼研究農場内の多発生圃場において、この前後の時期(8月〜11月)に病原ウイルスまたは媒介者が増殖しない3種類のイネ科の緑肥(エンバク、アウェナストリゴサ《えん麦野生種》及びライムギ)を2年連続で栽培し、その後に秋播き小麦を作付けした際の感染量や発病程度などを調べました(図1)。

 

図1イネ科緑肥の夏播栽培の効果検証
図1.イネ科緑肥の夏播栽培の効果検証

 

その結果、全栽培区で土壌中の病原体量の低下が確認され、特にライムギ栽培区で最もその程度が大きく、融雪後の発病程度も低くなりました(図2)。

 

図2根雪前のウイルス感染量-
図2.根雪前のウイルス感染量
[2019-2022年 試験地:ホクレン長沼研究農場]

これまでにもイネ科作物の夏播き栽培によりコムギ縞萎縮病の発生が少なくなることが示されていましたが、実際に土壌中の病原体の増減を定量的に解析したのは今回が初めてになります。

栽培品目は地域や一戸ごとに異なるため、本試験の様に2年連続の栽培は困難である場合も多いかと思いますが、本圃場が多発生圃場であることを考慮すると、汚染程度の少ない圃場においてはより高い効果が期待されます。

イネ科の緑肥作物は根系の発達が旺盛であり、土壌の物理性(団粒化・透水性)や生物性(根圏微生物の多様化)の改善効果が特に高いとされています。

また、イネ科緑肥作物は、キタネコブセンチュウ被害を軽減する効果もあります。これら効果に加え、対策が特に困難とされるコムギ縞萎縮病を低減させる手法の一つとして位置づけられるのではと考えています。

 

●コムギ縞萎縮病については、アグリポートWebでも紹介しています。>>記事を読む

 

まとめ

●イネ科緑肥の夏播き栽培により一定の低減が可能。
●さまざまな病原体を増殖させないために連作を避けることが重要。