この記事は2023年6月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 十勝農業試験場
生産技術グループ 主査 石倉 究(きわむ)さん
Profile:北海道大学大学院農学院博士後期課程修了(2017年)。同大学院での勤務を経て、2018年4月から現職。35歳。千葉県出身。
❶ 「きたほなみ」の起生期茎数と止葉期窒素吸収量を衛星画像から省力的に広域推定可能に。
❷衛星画像による推定結果から、圃場ごとに窒素施肥管理を行えるようになります。
秋播き小麦「きたほなみ」の窒素施肥管理は収量と品質に大きな影響を与えます。これまで、表1のような窒素施肥管理を行うことで高品質な「きたほなみ」の栽培を実現できることが整理されてきました。
しかし、起生期茎数や止葉期窒素吸収量は圃場ごとで異なり、これを全圃場で実測することは極めて困難です。また、止葉期窒素吸収量を求めるにはSPAD計(葉緑素計)が必要となります。
起生期茎数の推定法を公開中
そこで、起生期茎数と止葉期窒素吸収量を衛星画像から広域推定し、圃場ごとに窒素施肥管理が可能となる技術を開発しました。起生期茎数の推定法については道総研Webサイトで公開しているマニュアルをご覧ください。
起生期茎数の推定法マニュアル
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止葉期窒素吸収量の推定法とは
今回は、止葉期窒素吸収量の推定法を解説します。止葉期窒素吸収量の広域推定(図1)には、レッドエッジ帯と呼ばれる波長域の光の、地表面からの反射率から計算される値(正規化指数=NDRE)3種を用います(※注1)。
この方法に対応できる衛星は現時点で欧州宇宙機関のsentinel − 2です。具体的には注2の推定式から止葉期窒素吸収量を推定します。
この推定法は圃場内で上位茎数とSPAD計を用いて測定する方法に比べ精度が劣り、窒素吸収量が15kg/10aまでしか推定できませんが、圃場での測定が不要であるという利点があります(図2)。
なお、この推定式では止葉期と撮影日の日数差を考慮する必要があります。実際に同じ地点で窒素吸収量を2時期で測定し、窒素吸収量がどの程度上昇するか確認しました。その結果、日数差が11日までであれば、窒素吸収量の上昇は小さいことが分かりました(図3)。
窒素吸収量の上昇はその年の気象等に影響される恐れがありますので、過去の栽培結果も考慮すると、止葉期まで10日以内が適切です。そのため、衛星画像を用いて止葉期窒素吸収量を推定する場合、止葉期10日以内の衛星画像を利用します。
止葉期窒素吸収量推定法の注意点と活用
この推定法の注意点として、雑草が繁茂した圃場や障害が発生した圃場では推定に失敗する危険性があるので対象外となります。また、SPAD計が利用できる場合には、SPAD計による推定結果を優先してください。
止葉期窒素吸収量を推定するサービスは掲載時点でまだ存在しませんが、将来的には利用可能になると期待されます。衛星画像を用いて止葉期窒素吸収量を推定することで、これまでは困難であった圃場ごとの窒素施肥管理を省力的に実現できるようになります。
秋播き小麦の安定生産は、実需からの要望もさることながら、生産者の皆さんの経営安定化にとっても必要不可欠だと思われます。このような技術を活用することで、少しでも農業経営の安定化と高品質な小麦栽培につながれば幸いです。