小麦縞萎縮病

小麦縞萎縮病の発生について

キーワード:小麦小麦縞萎縮病防除
①縞萎縮病の発生状況
写真1.萎縮病の発生状況(遠方は健全)[平成27年4月撮影]
この記事は2016年8月1日に掲載された情報となります。

ホクレン 農業総合研究所 営農技術課

 

POINT!
小麦の播種期が近づいてきました。
縞萎縮病の発生に気をつけましょう。

 

縞萎縮病の発生について

春先、雪が融けると小麦畑が一斉に緑に色づき始めますが、その中に写真1、2のような畑の一部、または全体が生育不良な畑をみかけないでしょうか? 

 

2、縞萎縮病の発生状況
写真2.縞萎縮病の発生状況[平成27年4月撮影]

 

営農技術課で遺伝子診断を行った結果、このような畑の多くは縞萎縮病の感染が原因であることがわかりました。雪腐病や湿害と見間違えられますが、縞萎縮病の場合は、小麦は枯死することは少なく、次第に生育が回復します。発病畑では、小麦の分げつが抑制され、穂長が短くなり、粒重も低下し、減収になります。

 

健全株(左)と発病株(右)
健全株(左)と発病株(右)

 

 縞萎縮病は、平成3年に恵庭市、千歳市および長沼町で初めて発生が確認されました。その後、次第に発生地域が拡大し、平成25年には51の市町村に発生が確認されています(図3)。今では道内の小麦栽培地帯のほぼ全域に分布していると考えられます。

 

図3.縞萎縮病の発生が確認された市町村(道総研の調査より)
図3.縞萎縮病の発生が確認された市町村(道総研の調査より)

 

病原ウイルスの感染と発病について

縞萎縮病は、ポリミキサ・グラミニスという原生動物によってうつされるウイルス病です。ポリミキサは、耐久性の極めて強い休眠胞子(*1)(写真4)を形成し、土中で数年間生存できます。

(*1)休眠胞子:宿主が弱ってくると生存のためにできる胞子。厚い膜におおわれ、耐久性が強く、不適切な条件にも耐える。乾燥状態で10年以上も生存できる。

 

写真4.小麦の根(細根)にみられるポリミキサの休眠胞子
写真4.小麦の根(細根)にみられるポリミキサの休眠胞子(ワク内は拡大図)

 

この休眠胞子から放出された遊走子(*2)が小麦の根に感染し、遊走子による感染を繰り返します。小麦の生育が進むと、根には膨大な数の休眠胞子が形成されます。根が腐敗すると、休眠胞子が土壌中に放出されて分散し、次作の感染源になります。(図5)

(*2)遊走子:べん毛をもち、運動性のある胞子。べん毛により水中を移動し、根に到達するとべん毛がとれて、宿主の細胞内に侵入する。数時間から1日程度しか生存できない。

 

図5.縞萎縮病の生活環
図5.縞萎縮病の生活環

 

当課では、昨年秋から今年の春までのウイルスの感染と発病実態を詳しく調べたところ、根雪前にすでに小麦の根からは高頻度でウイルスが検出され、一部地上部まで移行していることがわかりました。本病の典型的な縞萎縮症状は、4月下旬から5月になって現れることから、これまで雪解け後から4月の気象条件が発病に影響するのではと考えられていましたが、当課で開発した遺伝子診断法により、秋期の感染の程度が、翌年春の発病に影響していることを初めて明らかにしました。得られた結果から、(図5)に示すような縞萎縮病の生活環を提案しています。

 

防除対策と今後の課題

汚染畑にしないこと、感染源を増加させないことが重要です。そのためには、連作を避け、適切な輪作を行うことが大切です。すでに過去に発病した畑やその可能性のある畑では、早播きを避けること、圃場の排水をよくすることなども大切な留意点です。抵抗性品種「ゆめちから」の栽培が推奨されています。しかし、「きたほなみ」など感受性品種の栽培をせざるを得ない地域もあり、汚染程度を減らし、被害軽減を目指した防除対策については、さらに検討する必要があります。