土壌pHを適正領域に改善しましょう!

キーワード:土壌pH石灰質肥料

土壌pHは作物を栽培するうえで欠かせない要素です。土壌酸性化の要因やアルカリ性化の障害、土壌pHの補正を解説します。

この記事は2024年1月10日に掲載された情報となります。

ホクレン 肥料農薬部 技術普及課

酸度矯正の必要性について

作物の安定した生育・収量・品質を維持するために最も重要な要素の一つとして土壌のpHが挙げられます。pH7が中性でそれより低ければ酸性土壌、高ければアルカリ性土壌です。多くの作物はpH6・0〜6・5の土壌を好み、この適正領域になるように土壌のpHを改善することが基本となります。pHは養分や作物にとっての有害成分の溶解性に大きな影響を与え、pHのりによっては各種養分の欠乏症、過剰症を招きます。また、土壌病害が発生している場合には該当する病害を抑制できるpHに調整する必要があります。

土壌酸性化の要因

一般的な土壌、特に日本の土壌は主に三つの要因で年々酸性化(低pH化)が進みます(図1)。

図1.土壌酸性化の仕組み(「草地の土づくり」より改変)
図1.土壌酸性化の仕組み(「草地の土づくり」より改変)

酸性化の障害

酸性土壌が問題になる理由として酸性そのものの直接的な生育阻害のほか、アルミニウムイオンが溶け出すことによる根への機能障害作用・リン酸の難溶化、微量要素が溶け出す・溶けにくくなることによる過剰障害・欠乏障害、石灰・苦土などの塩基の欠乏、微生物の活動に対する悪影響などが挙げられます(図2)。これらは土壌生産力全体にわたって大きな低下をもたらし、作物の生育に影響を与えます。

図2.pHによる各養分または有害物質の溶解度の違い(関東土壌専技会、1996年)※バンドが細いほど溶解度が低いことを表す
図2.pHによる各養分または有害物質の溶解度の違い(関東土壌専技会、1996年)
※バンドが細いほど溶解度が低いことを表す

 

アルカリ性化の障害

低pHが問題となることが多い一方で、pHを下げなくてはいけない場合も多くあります。例としては、ハウス土壌で塩類集積が起きている場合や、連年の石灰施用でpHが高過ぎて問題となっている場合、馬鈴しょのそうか病対策、土が水稲の育苗用床土である場合、低pHを好む作物を栽培する場合などが挙げられます。土壌のアルカリ度が高過ぎると図2からも分かるように鉄やマンガンといった微量要素が不溶化し、欠乏症が出る場合があります。

土壌pHの補正

<pHを上げる場合>

低pHを改善するための資材として石灰質肥料が用いられます。その必要量は、土壌の種類により異なり、黒ボク土などの腐植含量の多い土壌では緩衝能があるため容易に目標のpHには達しませんが、砂質土や黄色土などは容易に目標に達します。そのため石灰質資材を施用して酸性土壌のpHを上げる際には、炭酸カルシウム量を換算するためのアレニウス表(図3)がよく利用されます。この表により土性と腐植を考慮して酸性矯正に必要な炭酸カルシウム量を求めることができます。注意点として、緩衝能の大きい土壌では誤差が生じやすいため、土壌分析を定期的に行い、その結果を基に石灰質資材施用量の調節を行うことが大切です。石灰質資材の施用に関する詳しい内容は最寄りのJ‌Aへご相談ください。

図3.アレニウス表(一部抜粋)pH(最上段の数字)と土性、腐植含量(左端)から炭酸カルシウムの施肥量を算出
図3.アレニウス表(一部抜粋)
pH(最上段の数字)と土性、腐植含量(左端)から炭酸カルシウムの施肥量を算出
注)1.耕土の深さ 10㎝に要する施用量 2.消石灰使用の場合は 0.75 を乗じた量を施用 3.火山灰土の場合は普通土壌より比重が軽いので、この量より 30%程度を減じた方が良い

 

<pHを下げる場合>

ハウス土壌での主な対応策としては、石灰質肥料や鶏などの石灰を含む資材の施用をやめる、多潅水をして洗い流す、ソルゴーのようなクリーニングクロップ(緑肥)を栽培するなどの方法がありますが、一般的に土壌のpHを下げる場合は粉末硫黄、ピート(pH未調整のもの)、pH調整剤などを用いてpHを下げます(図4)。中でも育苗用床土の酸度調整をする場合、一般的には粉末硫黄、サンドセットなどのpH調整剤が用いられます。粉末硫黄を使う場合は効果が出るのに15〜25日程度かかりますが、その後のpHは長期間、低位安定化します。

図4.粉末硫黄を用いて土壌pHを下げる場合
図4.粉末硫黄を用いて土壌pHを下げる場合

 

 

サンドセット(左)と粉末硫黄(右)
サンドセット(左)と粉末硫黄(右)

 

炭酸カルシウム
炭酸カルシウム
あらかじめ石灰質肥料を配合したBB肥料も省力化が図れる資材としてあります!

 

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