生産性向上技術

農薬の上手な使い方①~殺菌剤編~

キーワード:品種品種技術肥料農薬防除
農薬の上手な使い方①~殺菌剤編~
図1.保護殺菌剤と浸透性殺菌剤の特徴
この記事は2017年2月1日に掲載された情報となります。

ホクレン 肥料農薬部 技術普及課

 

POINT!
異なる系統の殺菌剤によるローテーション防除を実施し、耐性菌管理を徹底しましょう。

 

1.殺菌剤の種類と特徴

殺菌剤は、銅剤や抗生物質、QoI剤やDMI剤、抵抗性誘導剤等、さまざまな系統がありますが、大きく保護殺菌剤と浸透性殺菌剤に分けられます。

保護殺菌剤は、作物の表面に化学的な障壁をつくることで、菌の侵入を阻止・防御するタイプで、古くから使用されている薬剤が多くあります(銅剤、マンゼブ、TPN 等)。このタイプは、多くの代謝系(エネルギーを得たり物質合成等を行う)に作用するため、幅広い菌種に効果があります。ただし、すでに作物体内に侵入している病原菌に対しては効果がなく、予防剤として使用されます(図1)。

一方で、浸透性殺菌剤は、作物の体内に速やかに吸収されるため、植物体内に侵入した病原菌にも効果があります(治療効果)。このタイプは、ごく少数の代謝系に作用するため、保護殺菌剤と比べて効果を示す菌種は限られますが、優れた効果を示すケースが多くあります。

 

2.殺菌剤のタイプで違う耐性菌発生リスク

殺菌剤を継続して使っていく上で問題となるのが「耐性菌」の出現です。

一般的に、保護殺菌剤は、多くの代謝系に作用するため(非特異的)、耐性菌の発生リスクは低い傾向にあります。

一方で、浸透性殺菌剤は、作用するところが特別なごく一部の代謝系に限られるため、耐性菌の発生リスクが高くなる傾向にあります(図2)。また、同一系統(化学的分類)の殺菌剤を繰り返して使う(連用)とさらに発生リスクが高くなりますので(図3)、異なる系統の殺菌剤によるローテーション防除が大切です。

道内においても、浸透性殺菌剤での耐性菌出現が確認されており、使用できなくなった薬剤もあります。こうした事態にならないよう注意が必要です。

 

3.薬剤系統や病原菌によって違う耐性菌発生リスク

耐性菌が発生するリスクは、薬剤系統や病原菌の種類によっても異なります。

薬剤ではMBC剤(ベンレート、トップジンM等)、QoI剤(ストロビー、アミスター等)などの系統で耐性菌発生リスクが高く、病原菌では、灰色かび病、いもち病、うどんこ病等の菌種で発生リスクが高くなっています。(殺菌剤耐性菌対策委員会(FRAC)評価)

また、薬剤系統や病原菌の種類の組み合せで、それぞれのリスクが高い組み合せほど耐性菌の発生リスクも高くなりますので、特に耐性菌管理を徹底する必要があります。

 

図2. 保護タイプと浸透性タイプの耐性菌発生リスク(イメージ)
図2. 保護タイプと浸透性タイプの耐性菌発生リスク(イメージ)
【保護殺菌剤の場合】
薬剤は、病原菌の体内に吸収され、生育に必要な酵素やタンパク質など(作用点)に結合することで、その機能を阻害する。保護殺菌剤の場合は、作用点が複数あり、全ての構造が異なる場合のみ耐性菌になるので、リスクは小さい。

 

浸透性殺菌剤の場合
【浸透性殺菌剤の場合】
作用点がごく一部に限られ、ここが異なるだけで耐性菌となり、リスクが大きい。

 

4.耐性菌の発生を防ぐポイント

耐性菌が発生すると、防除体系を大幅に見直さなければならず、場合によっては防除に支障をきたす恐れがあります。

農薬(殺菌剤)の散布にあたって、心がけたいポイントを紹介します。

 

① 同一系統の薬剤を続けて使うことは極力避ける。
② 異なる系統の薬剤によるローテーション防除を行う。
③ ラベル内容に基づき、登録濃度・散布量をしっかり守る。
④ 予防散布を心がける。
⑤ 適切な防除間隔を保つ。

 

図3. 同一系統の薬剤を連用した場合の耐性菌増加のメカニズム
図3. 同一系統の薬剤を連用した場合の耐性菌増加のメカニズム
同一系統の薬剤を続けて使うと、病原菌の中でその薬剤に耐性をもつ個体が生き残ることで急激に割合が増え、やがて効果がなくなってしまう。これが耐性菌の発達(増加する)メカニズムである。

 

5.耕種的防除も忘れずに!

耐性菌の発達を防ぐ上では、抵抗性品種の作付や輪作、病気にかかった作物残渣や周辺雑草の除去といった耕種的防除も重要です。

効果の高い薬剤を末永く使用していくためにも、化学農薬のみに頼らない総合的な防除を行いましょう。