この記事は2019年6月1日に掲載された情報となります。
道総研 中央農業試験場 生産研究部
水田農業グループ 主査(水田環境)
大橋 優二さん
profile:岩手大学大学院修了。中央農試、原子力環境センター、酪農試験場天北支場などを経て平成27年より現職。園芸作物や畑作物の試験を担当。
POINT!
❶土壌乾燥時の地下かんがいで、玉ねぎの規格内収量が向上する。
❷「地下かんがい判断手法」活用で、降雨の状況から適切な実施タイミングがわかる。
玉ねぎは、主要な根張りの深さが地表下20㎝程度と比較的浅い作物です。このため、干ばつが続くと、生育や球の肥大が著しく抑えられます。
土壌の乾燥時にはかん水が有効です。かん水方法には、スプリンクラーなどを用いた地上からの「畑地かんがい」がありますが、その他に、水田地帯で設置が進む、用水を流入させて暗きょ管の内部を清掃する施設「集中管理孔」を利用した「地下かんがい」があります。
地下かんがいが玉ねぎの収量に及ぼす効果や、実施の判断手法を紹介します。
地下かんがいの仕組み
地下かんがいを行うには、まず、用水を集中管理孔マスに流入させて暗きょパイプに通水します(図1)。
パイプ末端の「水こう」と呼ばれる栓を閉じると、用水が暗きょパイプから上方へと土中の亀裂を伝って広がります。地下かんがいの水位は、水こうの水位調節用の穴の位置で調節します。
地下かんがいで玉ねぎの規格内収量が向上
玉ねぎの栽培期間中、土壌がかん水を必要とする乾燥レベルに達した時点で地下かんがいを行いました。玉ねぎの根張りの深さを考慮して設定水位を「地表下20㎝」とし、用水がその水位に到達して24時間後に、水こうを引き抜いて土中の用水を排出しました。
地下かんがい区では対照区(地下かんがい未実施)に比べて球が順調に肥大し、特に高価格が見込める「L大規格」の球数が増加しました(写真1)。
地下かんがいの実施により規格内収量比(対照区を100とした指数)は高まり、収量が向上しました(図2)。
ただし、2016年の場内試験では収量比102と、地下かんがいの効果がほとんどみられませんでした。これはかんがい実施後2日目に30㎜以上の降雨があり、地下かんがいのかん水効果がリセットされたためと考えられました。
降雨の状況から実施するタイミングがわかる
土壌の乾燥レベルを測定する機器がなくても、地下かんがいが必要なタイミングを実施予定日前後の降雨状況から判断する「地下かんがい判断手法」を作成しました(図3)。
これにより、土壌の乾燥状態を測定することなく、適切なタイミングで地下かんがいを実施することができます。
地下かんがい実施の注意点
地下かんがいを効果的に行うため、定植前にあらかじめ弾丸暗きょやサブソイラを暗きょと直交に施工し、土中に水路を作ることが大切です。また、均平が著しく劣る圃場や漏水が激しい圃場では、水位上昇が不均一になるなど、地下かんがいの実施は困難なため避けてください。