この記事は2024年10月1日に掲載された情報となります。
農業生産のさまざまな場面で微生物の力が活用されています。多くの事例の中から4つの例を紹介します!
01.生分解性マルチ
<微生物の働きでシートを分解>
地温を上げて生育を早める、雑草を抑え、乾燥を防ぐなど、圃場の表面をシートで覆うマルチ栽培には、多くのメリットがあります。
通常、ポリエチレン由来のマルチフィルムが多く使われますが、作物収穫後に圃場から剥ぎ取って回収し、産業廃棄物として処理しなければならないため、手間や費用がかかります。
一方、生分解性マルチは生分解性樹脂を原料としており、空気中の水分や温度などで分解が始まり、収穫後に土壌にすき込むことで、土壌中の微生物の働きによりマルチ自体が分解されます。
通常のマルチに比べ、剥ぎ取り作業が必要なく作業省力化が期待できます。価格は通常のマルチよりも高価になるものの、利用率は上昇しています。
なお、分解のしやすさは、製品の原料や製造方法などで変わるだけでなく、使用する土壌の条件、天候などでも異なるので、注意する必要があります。
02.微生物農薬
<病害や害虫対策に微生物の力!>
微生物は病害虫防除にも活用されています。自然界にいる微生物の中で、病原菌や害虫から植物を守ってくれるものを見つけ、増やして製剤にしたのが微生物農薬です。
たとえば、病原菌が作物の表面に住み着く場所を、先に住み着いて奪うことで病原菌の活動を妨げ、作物への感染を予防するものや、害虫の消化管内に取り込まれると、その微生物の結晶たんぱく質が毒素に変わり害虫を死滅させるもの(BT剤)などがあります。
もともと自然界にいる微生物なので環境にやさしく、化学農薬に比較すると耐性菌や抵抗性害虫が現れる可能性が低いといわれています。一方、微生物農薬は、防除対象や時期が限られることも多いので、使い方や保管方法に留意しましょう。
03.牛の第一胃(ルーメン)
<草の繊維を分解>
牛は、人間では消化できない草を主な栄養源としていますが、それにも微生物が大きく関わっています。
牛は4つの胃を持ち、食道と直接つながる第一胃は「ルーメン」と呼ばれ、4つの胃全体の約8割を占める大きいもので、中に多くの微生物がいて、その働きで草などの繊維を分解し、栄養として吸収できる形にしています。
ちなみに第二胃の働きは、収縮により再度、口に送ってを助け、細かくなった草(飼料)を第三胃に送ります。
第三胃は水分やミネラルなどを吸収。第四胃は酸と酵素で草(飼料)や微生物を最終的に消化します。
人間の胃と同じような働きは第四胃だけで、第一〜三胃は食べた草を分解する前処理をしています。微生物の働きがなければ、牛も草から栄養を得ることはできないのです。
04.稲わらなどの分解
<養分を作物が使える形に>
稲わらなどの有機物を分解するのも微生物の働きです。稲わらに含まれる窒素やリンなどの養分も、微生物によって分解されることで作物が使える形になります。
ただし、作付けする年の春に稲わらをすき込むと、その分解のために微生物が土壌中の窒素を使ってしまい、稲の初期生育に影響したり、稲わら由来の窒素が生育後半に発生することで食味低下につながったりする懸念があります。
また、活発な分解で(水をためた)土壌が還元状態になり、メタンの発生(ワキ)を高めることも分かっています。
稲わらは圃場から搬出して堆肥化が望ましいですが、すき込む場合は、前年秋に圃場をよく乾かしてからすき込み、微生物による分解を進めておくことが大切です。