この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。
北海道農政部 生産振興局技術普及課
農業研究本部駐在 主査(普及指導)
荒木 英晴さん
Profile:北海道大学大学院博士後期課程修了。釧路農業改良普及センター、北海道立農業大学校、網走農業改良普及センター、十勝農業改良普及センターを経て現在に至る。小麦の栽培管理を中心に畑作全般を担当。博士(農学)。
POINT
●「きたほなみ」の葉を「ピン」と立てることで、安定した収量の確保につながります。
秋播き小麦は日照の影響を受けやすい
北海道の基幹品種「きたほなみ」は実需者から高い品質評価を得ている一方、収量の年次変動の大きさが問題となっています。
秋播き小麦の収量は、出穂期〜成熟期(北海道ではおおむね6〜7月)の日照時間に大きく左右されますが、北海道ではこの期間中、梅雨前線の影響などから日照不足になりやすく、収量の年次変動を招く一因となっています。
こうした中、光を効率よく利用できる草姿(受光態勢)をつくることで、日照不足の年でも収量変動を小さくできる栽培法に取り組んだ事例を紹介します。
受光態勢に優れる「きたほなみ」
「きたほなみ」は以前の基幹品種「ホクシン」と比べ、次の特徴があります。
❶「きたほなみ」の葉は直立葉の草姿であるため、葉先は垂れにくい。このため、下位葉に光が当たりやすい(写真1)。
❷「きたほなみ」は第2葉(止葉の1枚下)以下の光合成能力が高く、その能力は成熟期まで維持される(図1)。
❸ 登熟前半(開花期〜乳熟期)の乾物生産量に差はない一方、登熟後半(乳熟期〜成熟期)は「きたほなみ」の方が高い(図2)。
このように「きたほなみ」は受光態勢に優れるため、「止葉を立てて下位葉に光を当て、登熟後半まで子実生産を持続させる管理」が必要といえます。
受光態勢は栽培管理に左右される
小麦は出穂期以降、主に止葉、第2葉(止葉の1枚下)および第3葉(止葉の2枚下)で光合成をします。この3枚の葉の形質は、主に融雪期以降の栽培管理によって変わります。
例えば、起生期から追肥を行うと葉は大きく垂れやすくなります。一方、追肥を遅らせ幼穂形成期頃から追肥すると葉は小さく立ちやすくなります(写真2)。
このように、受光態勢は追肥時期や追肥量などの栽培管理のほか、圃場の地力や起生期の茎数などによって変わります。
施肥方法の見直しによる受光態勢の改善(十勝管内の事例)
十勝管内A地区では、2016年産以前は止葉が大きく垂れ、下位葉に光が届きにくい圃場がほとんどでした(図3)。
そこで、2017年産から受光態勢の改善に取り組み、融雪期以降の追肥時期を遅らせたところ、下位葉まで光が当たる草姿に変わりました。
2018年産の十勝管内は登熟期間中の日照不足により、収量は平年以下となりました。一方、A地区の収量は平年を上回り、日照不足の年でも安定した収量を確保できました。
受光態勢の重要性は更に高まる
生産現場の「きたほなみ」を見ると止葉が垂れ、受光態勢の悪い圃場が多くあります。2030年代の気象予測(平成23年指導参考事項)では、6〜7月の日照時間は現在より減少すると予想しています。
今後、収量の安定確保の実現に向けて、限られた光を有効に利用できる受光態勢づくりがポイントといえます。