この記事は2018年6月1日に掲載された情報となります。
道総研 中央農業試験場病虫部
予察診断グループ研究職員 荻野瑠衣
profile:帯広畜産大学卒業。平成23年より中央農試に勤務し、各種害虫を担当。
POINT!
❶りん茎被害防止のための重点防除時期は8月上旬です。
❷圃場内での発生増加を防止するため、1回目と2回目の成虫発生時期にも防除を。
❸効果的な薬剤を選択し、ネギアザミウマとの効率的な同時防除も実施しましょう。
平成25年に突然大発生
ネギハモグリバエは成虫の体長が2㎜程度の小さなハエで(写真1)、幼虫はネギ類の葉を加害します。
これまで道内で被害が問題となることはほとんどありませんでしたが、平成25年に、空知、石狩、上川地方の玉ねぎ圃場で突然大発生し、多発圃場ではりん茎の品質に重大な悪影響をもたらしました(写真2)。
このような被害はその後も続いているため、春播き移植栽培を対象にりん茎被害軽減のための防除対策を検討しました。
生態とりん茎被害の発生
本種の雌成虫は葉に孔を開け、しみ出す汁液を摂食します。この時に残される白い点状の成虫食痕は、葉に一直線に並ぶのが特徴で、発生確認の目印になります(写真1)。
孔の一部に産卵し、ふ化した幼虫は葉の中をもぐって、短く分断された線状の食害痕を残します。
通常、幼虫は葉の外へ出て地中で蛹(さなぎ)になりますが、多発すると、一部が葉からりん茎内に迷い込んで外に出られなくなり、りん茎にトンネルや幼虫の死骸が残ります。
これが「りん茎被害」で、出荷先での調理時に、被害が初めて明らかになるので厄介です。
玉ねぎ圃場での発生生態
玉ねぎ圃場での動向を調査したところ、圃場内で蛹態での越冬が確認されました。調査地域内では、他の発生源からの侵入による多発生は見られなかったので、圃場内で年をまたいで発生を繰り返していると考えられました。
成虫の主要な発生時期は、越冬した蛹から羽化した1回目は5月中旬〜6月中旬、2回目は7月上旬〜下旬、3回目は7月下旬〜8月下旬でした(図1)。
発生量は順次増加し、多い圃場では1回目から3回目にかけて1000倍以上に増えます。
有効な薬剤とりん茎被害抑制のための効果的な防除時期
本種に対して、シアントラニリプロール水和剤F(商品名:ベネビアOD)を筆頭に、スピネトラム水和剤F(商品名:ディアナSC)、チオシクラム水和剤DF(商品名:リーフガード顆粒水和剤)は、葉身の食害を抑制する効果が認められ(図2)、りん茎被害防止にも有効と考えられました。
薬剤防除時期を変えた試験の結果、りん茎被害の抑制に最も効果の高い防除時期は8月上旬頃となりました(図3)。
春からの継続的な防除
これらの結果から、りん茎被害防止のための防除方法をまとめました(図4)。
被害抑制の重点防除時期は、春播き移植栽培では8月上旬頃です。この時期に、効果の最も高いシアントラニリプロール水和剤Fを基幹とした2回の防除を実施します。
一方、世代経過に伴う発生密度上昇を防ぐため、これより前の発生時期の防除も大切です。7月の2回目成虫発生期は、玉ねぎの重要害虫であるネギアザミウマの防除を欠かせないため、ネギアザミウマ、ネギハモグリバエ双方に効果のある薬剤(ディアナ・リーフガード)を選択します。
5月中旬から6月中旬頃までの1回目成虫発生期は、圃場を観察し、成虫や成虫食痕が認められた場合に防除を実施します。