この記事は2018年4月1日に掲載された情報となります。
疲れている時にどんなものを、どのように食べると効果的に疲労回復できるかをご存じですか?札幌厚生病院で栄養指導を担当する管理栄養士、福岡由紀さんにお聞きしました。
JA北海道厚生連 札幌厚生病院
医療技術部 栄養科 科長
福岡 由紀さん
管理栄養士 福岡さんにお聞きしました
知ってほしい 食事のポイント
忙しいと栄養は炭水化物に偏りがち
管理栄養士の福岡由紀さんはこう言います。
「病院に来られる生産者の方に普段の食事についてお聞きすると、栄養が炭水化物に偏っていることが多いようです。たとえば、お昼はおにぎりや菓子パンだけ、夏場はそうめんだけとか、おかずもイモやカボチャが多かったり…。炭水化物を食べると血糖値が急に上がるので、一瞬、元気になったように感じます。しかし、急に上がった血糖値は、そのぶん急に下がるので、かえって疲れを感じやすくなります」
では、疲れにくい体をつくるのは、どのような食事なのでしょう。
「タンパク質、炭水化物(糖質)、脂質、ビタミン、ミネラルの5大栄養素をバランスよく取る食事です。炭水化物は力や熱などのエネルギーになりますが、タンパク質やビタミン・ミネラルを一緒に取れば、血糖値の上昇が緩やかになり、加えて代謝が活発になるので、疲れにくくなります」
とはいえ、忙しいときに3食、おかずを何品も手づくりしている時間がないのも事実。
「たとえば、おにぎりだけじゃなくて、ゆで卵やチーズを加えたり、牛乳や豆乳を飲んだり、トマトを食べたり…。調理しなくても食べられるものを揃えてみたらどうでしょう」
むずかしく考えず、一品プラスから始めてみれば、栄養のバランスも改善できそうです。
タンパク質の取り過ぎも禁物!
炭水化物に偏った食事とは反対に、最近は「低糖質ダイエット」など炭水化物を極端に減らした食事方法が話題になっていますが、福岡さんは懸念しています。
「ご飯などの炭水化物を減らせば、どうしてもタンパク質が中心の食事になってしまいます。タンパク質を取り過ぎると、コレステロールや尿酸値が高くなってしまう場合もありますし、タンパク質を分解する腎臓に負担がかかってしまうことも。やっぱりバランスが大事なんです」
福岡さんによると、1日に必要なタンパク質は、肉が80g程度と魚が切り身1切れ、卵が1個、それに大豆製品(豆腐3分の1丁程度か納豆1パックどちらか)で十分。これらを3度の食事に分けて食べるのがベストだそう。
たとえば、朝は納豆ご飯、昼に豚肉の入った野菜炒め、夜は焼き魚と冷や奴という具合なら理想的です。
ちなみに肉80gは、豚肉の薄切りなら3枚程度。「これでは物足りない」という方が多いはずですが、今の食事は食べ過ぎだということ、食べ過ぎは体を疲れさせるということをちょっと考えて、食事を少し改善するだけでもいいでしょう。
疲れにくいポイントは
5大栄養素をバランスよく取る→代謝が活発になる→疲れにくい!
トラクターに例えると
●タンパク質→車体・エンジンの材料
●炭水化物・脂質→燃料
●ビタミン・ミネラル→エンジンオイル・潤滑油
どれが欠けても故障してしまうのと同じです。
食事は1日3回、決まった時間に
忙しいと、夕食が遅い時間になってしまいがちですが、福岡さんによると、不規則な食事も疲労の蓄積につながるそうです。
「朝・昼は忙しいから軽く済ませて、夜にしっかり食べるという方が多いと思いますが、夜に揚げ物など脂っこいものを食べると胃がもたれて、疲れを朝に持ち越しがち。食べる量が多いと消化するにもエネルギーを使うので、できれば朝昼にしっかり食べて、夜は消化がよく、あっさりした和食などの食事が理想です。〈夜は軽めに〉を意識してください」
また、早朝に起きてそのまま作業に出る場合も、空腹で動くのはよくありません。
「寝ている間、エネルギーをまったく取っていませんから、低血糖で集中力を欠いてしまいます。バナナ1本でも食べてから出かけてください」
ただし、最近、手軽な朝食として人気が高まっているシリアル類には、少し注意が必要とのこと。
「栄養バランスに優れたイメージがありますが、ドライフルーツやナッツの入ったグラノーラは、糖分が高いことに注意しましょう。カロリーオフのものや玄米フレークを選んでください」
おやつはOK?それともNG?
それでは福岡さん、間食はしないほうがいいのですか?
「3食で足りないぶんを補うのなら構いませんが、間食によってカロリーオーバーになるのは問題です。朝昼晩の食事を少なめに調整しましょう。また、間食はどうしても糖質に偏ってしまいがち。糖分過多にならないように気をつけてください」
作業で忙しい時の間食には甘いものをつい食べ過ぎることがありますが、そんなときは鉄分やカルシウムの入った栄養機能食品や果物がおすすめだそうです。
「果物も糖質ですが、ビタミンが摂れます。ヨーグルトをプラスすればタンパク質も取れますよ」と福岡さん。飲みものも、お茶やお水、クエン酸の入ったスポーツドリンク、ビタミンや食物繊維が添加された野菜ジュースなどを選んでほしいとのこと。
「トイレに行くのが面倒だからと、あまり水分を取らない方もいますが、水分補給は熱中症予防にも大切。糖分の取りすぎには気を付けつつ、水分をしっかり取るようにしてくださいね」とアドバイスしてくれました。
嗜好品の常用にも要注意
仕事が終わったあとのアルコールはダメですか?
「お酒を飲むとぐっすり眠れるという人がいますけど、早朝に覚醒するなど良質な睡眠が得られない場合が多く、かえって疲れやすくなります。リラックス効果はあると思いますので、ビール1缶(350㎖)くらいに抑えてほしいですね」
疲れたときに飲む栄養ドリンクはどうですか?
「カフェインが入っているものが多いので、一時的には集中力が増した気になりますが、効果が切れたときの疲労感は大きいはず。そんなに常用してほしくないですね。飲むのは肝心なときだけにしたほうがいいでしょう」
分かってはいるけど守れない、という方もいるでしょうが、きちんと理解した上でアルコールや栄養ドリンクの量を考えてみましょう。
体重の変化にも気をつけて
最後に、福岡さんからのアドバイスをもうひとつ。
「農家さんの中には、夏と冬の体重差が激しい方がいます。夏になったらどうせやせるから冬は太ってもいいと考えていると、血糖値が下がりにくくなって糖尿病を招くことも。体重はできるだけ変動がないようにしたいものです」
冬は雪かきくらいで動かない。一方、夏は忙しいからゆっくり食べる時間がなくてやせる。確かに、その落差が体にいいはずがありません。食事で気をつけなくてはいけないことはたくさんありますが、大切なのは、まず、できることから始めること。生産者こそ体にいいものをちゃんと食べて、とびきりおいしい農作物をつくりましょう。
適正エネルギー量は、
標準体重〈身長(m)×身長(m)×22〉
×生活強度に応じたカロリー
〈●軽労作(軽作業やデスクワークなど) 25~30Kcal
●普通の労作(営業・立ち仕事など) 30〜35Kcal
●重い労作(力仕事などのハードワーク) 35Kcal〉
=1日あたりの摂取カロリー量
例)身長165cmで農業を営んでいる方の場合
(標準体重)60kg×(重い労作)35Kcal=約2100Kcal
が1日の適正エネルギー量となります。
エネルギー2100Kcalの食事の目安(1日分)
●主食/ご飯200g×3食(お茶碗1杯強で200g)
●主菜/魚1切(100g)、薄切り肉3枚(80g)、卵(1個)、納豆(1パック50g)または豆腐1/3丁(100g)
※週に2回は青背魚を選びましょう。
※肉は脂の少ない部位を選びましょう。
●副菜・その他/野菜350g、海藻・きのこ1品、果物1個、牛乳またはヨーグルト200g、油は1日大さじ1〜2杯
※揚げ物は週2回以内に。
※生野菜なら両手のひら一杯で100g、煮物やゆで野菜なら握りこぶしひとつ分で100gが目安です。