
この記事は2025年12月1日に掲載された情報となります。

北海道 農政部 生産振興局 技術普及課
課長補佐(担い手対策)
七社 貴郎(ななしゃ たかお)さん (右)
北海道 農政部 農業経営局 農業経営課
農業経営・企業連携サポート室長 主幹(経営指導)
髙谷 泰範さん(中央)
公益財団法人 北海道農業公社農業経営相談室
継承コーディネーター 名取 雅之さん(左)
「借り入れがゼロになってから」「事業が黒字になってから」と、経営移譲を先送りにしていると、相続で思わぬトラブルが発生することも。
いずれ働けなくなるときのために、引退後のライフプランを考えておく必要があります。
経営継承を考え始めるきっかけは?
農業者年金が支給される65歳を経営移譲の目途にする人もいれば、病気をきっかけに検討する人、子どもが後を継がないことが明確になった時点で考える人など、さまざまですが、健康で働けているうちはつい先送りにしがちです。
経営が順調な時こそ、現在の経営状況を改めて見直し、経営の将来像・方向性を考える良い機会になるかもしれません。
早く準備したほうがいいのはなぜ?
後継者がいても家族の合意に時間がかかる場合があります。後継者に明確に継承時期を示すことで、後継者は自身の将来ビジョンを描くことができます。
また税制上、複数年で資産を引き渡す方が有利な場合があります。
後継者がいない場合、高齢になると体力に見合うよう規模を縮小して営農しがちですが、後継者が専業経営として生計を立てられないと引き継ぎがままなりません。
経営規模を縮小する前に引退を見据えて移譲に向けたスケジュールを考えておきましょう。
一方、後継者がいないのに個人で経営面積を大きくしすぎると、資産価値が高すぎて第三者が継承しづらくなります。
準備しないと、どんな問題が起きる?
経営主が病気やケガをすると、後継者は何も分からないまま営農することになります。
農業用の資産は後継者に譲る際に家族間で合意できていないと、経営者が亡くなったあと、兄弟から相続の遺留分を請求され、家族争議に発展することもあります。
後継者がいない場合はより深刻です。経営主が急に倒れると、第三者継承を募集している時間もなく、農場を畳むしかなくなります。
農地を買ってもらったり貸したりできるのか、施設や機械はどうするか、その道筋だけでも家族に示しておくべきです。
スムーズな継承に必要な時間は?
経営移譲の手続きには年単位の時間がかかります。継承者が営農に必要な技術やスキルを習得するにも相当な期間が必要です。納税額を抑えてスムーズに経営を移譲するためにも、早めの準備が欠かせません。
親族間継承で2年、第三者継承で3〜4年程度が目安です。50代から準備を始め、60歳になったらいつでも引き継げるように心づもりをしておくことをお勧めしています。
引き継ぐ準備は何から始めればいい?
まずは、継承準備を始めることについて家族で話し合いましょう。併せて資産内容と借り入れを洗い出し、収支の状況を表にまとめて整理しましょう。場合によっては経営分析を依頼して、どのくらいの所得なのかを把握。収支の改善を図ることも必要かもしれません。
また、具体的な移譲時期とそれまでのスケジュールも書き出してイメージしてみましょう。それらを元に役場やJAに相談するとスムーズです。
継承のプロセスとは?
例えば、第三者継承の基本的な流れは図のとおりです。地域担い手育成センター(市町村やJAなど)では、移譲を希望する経営者からの相談を受け、新規就農フェアやホームページなどでの情報発信を通じて継承希望者を探し、両者をマッチングする取り組みを行っています。
農場で事前体験をした上で、研修期間や継承内容を協議。合意のもとで農業研修をスタートし、研修期間終了後、経営を継承します。

これまでは酪農分野を中心に第三者継承が進められてきましたが、今後は耕種分野でも第三者継承のニーズが増えるものと予測されています。
近年は地域おこし協力隊の制度を活用して農業支援員として3年程度研修し、期間終了後に営農を目指す取り組みが増えています。新規就農者の受け入れにあたっては、地域の関係者が連携し、優良農地の確保や農業の知識と技術を習得できる体制づくりに取り組むなど、経営の開始と早期の安定に向けた支援を行うことが重要です。