この記事は2024年10月1日に掲載された情報となります。
十勝農業協同組合連合会 農産部
農産化学研究所 三口 雅人さん
十勝農協連では独自にアゾスピリラム菌を利用した微生物資材を開発。15年以上前から販売しています。開発の経緯や使用法について聞きました。
植物ホルモンで生育を促進
十勝管内の23JAで組織する十勝農協連では、アゾスピリラム菌を用いた微生物資材を独自に製造し販売しています。どのようなものなのでしょう。農産化学研究所の三口雅人さんに聞きました。
「当会では70年以上前から根粒菌資材を商品化し販売してきましたが、マメ科以外の作物に使える窒素固定細菌はないだろうかと、着目したのがアゾスピリラム菌です。調べてみると窒素固定能力は根粒菌と比較して低いものの、幅広い植物の根に寄生し、植物ホルモンを分泌して根張りを良くする効果が高いことが分かりました。そこで、このアゾスピリラム菌を用いた資材の開発に取り組み始めました」
根が増えるからネフエール
2005年から3年間は、北海道大学、帯広畜産大学、農研機構 北海道農業研究センター、道立中央農試(当時)、道立北見農試(当時)の5機関と共同研究を行い、アゾスピリラム菌による生育促進効果と増収効果を確認。
2008年にてん菜用と玉ねぎ用のアゾスピリラム菌の育苗資材「ネフエール」を同時発売。さらに2017年には育苗野菜用の「ネフエール液剤」も販売しました。「根が増える」ことをストレートに表現した、覚えやすい商品名です。
「当研究所にはさまざまな植物から分離した400種以上のアゾスピリラム菌のコレクションがあります。それらを作物に接種し最も適したものを選んで商品化しました。てん菜用、玉ねぎ用、野菜用、それぞれ菌の種類は違います」
育苗中の散布がポイント
ネフエールの使用法のポイントは「育苗時に散布する」ことです。野菜用はレタス、はくさい、キャベツ、ブロッコリーなどの育苗中に使用します。
「育苗中は密植状態なので、菌を効率的に接種できます。畑に移植してから1株当たり同じだけの菌を散布しようとすると、数百倍の量が必要になるでしょう」と三口さん。苗づくりの段階での接種が効率的だと強調します。
生育初期に1回散布すれば、移植作業中も土落ちが少なく、定植後の活着も良好。移植後も効果が持続するそうです。
ただし、殺菌剤などの農薬に弱いので、散布の前後それぞれ5日間は農薬の使用を控える必要があります。微生物は生き物なので、保管時に凍結したり、高温にさらされたりしないよう配慮も必要です。
持続可能な農業に寄与
てん菜用、玉ねぎ用のネフエールは発売からすでに16年。特にてん菜用は、2022年に十勝の移植栽培面積の約4割まで普及しました。
なお、近年は直播に切り替える生産者が増えていることもあって出荷数は減少気味です。一方で、玉ねぎ用はオホーツクを中心に年々増えているそうです。
「アゾスピリラム菌は化学物質ではないので、環境への負担が少ない資材です。これからもより㆒層、環境保全に配慮した資材を開発し、持続可能な農業に寄与したいと考えています」と三口さん。
現在は微生物を使って温室効果ガスを減らすプロジェクトにも参画中です。
お問い合わせ先
十勝農協連農産化学研究所
Tel.0155-37-4325