リスクを見直し農作業事故を防ぐ農業経営を始めよう

キーワード:VR農作業事故農作業事故防止農研機構

 

 

この記事は2024年3月25日に掲載された情報となります。

 

農研機構 農業機械研究部門 システム安全工学研究領域 予防安全システムグループ長 積 栄(せき えい)さん

農研機構 農業機械研究部門 システム安全工学研究領域
予防安全システムグループ長 積 栄(せき えい)さん

 

経営に関わる農作業事故はリスクを排除すれば防げる

農作業事故は依然、高い頻度で起こっています(図1)。事故でけがや死亡に至った場合、日々の生活に加えて農業経営にも大きな影響があります。「安全な作業」は事故を防ぐだけでなく、無理・無駄のない「良い仕事」であり、労働力と収益の確保にもつながります。「経営」と「安全」は一体で考えるべきです。

 

図1.就業者10万人当たり死亡事故者数の推移(農林水産省資料)
図1.就業者10万人当たり死亡事故者数の推移(農林水産省資料)

 

農作業による負傷事故は、若年層で発生確率が高い傾向にあります(図2)。ベテランの方は、ヒヤリハット経験の蓄積により、うまく危険を回避しているとも考えられ、それはつまり、農作業の現場には、もともとたくさんの危険が潜んでいることを示唆しています。

図2.北海道での年齢と事故の関係
図2.北海道での年齢と事故の関係

 

それでは、そうした危険をどうすれば減らせるのでしょうか。私たちの調査によれば、事故の原因は「人」「機械・施設」「作業方法」「環境」の4点に集約できます。

「人」に関する「ミス」は、安全作業の声かけ、教育などで対策することになります。でも「人」は必ず「ミス」をする生き物ですので、これだけで事故をゼロにはできません。一方、重大事故では、原因が人的要因だけ、ということはまずありません。例えば、「機械・施設」において、安全装置がなかった、メンテナンスが不十分だった、などは多く見られます。「作業方法」では、家族や地域で昔から行われていた機械の使用方法が、実は安全上は誤使用だった、ということもあります。作業場所の傾斜が大きい、路幅が狭いなど、「環境」面に危険が潜んでいる場合も多くあります。

 重大事故は複数の要素が重なって起きていますので、これらの要因を排除していけば、事故の多くは防ぐことができるのです。

 

事故事例と共に現場を見てみんなで取り組む安全対策

事故のリスクは農場ごとに違い、全てに有効な共通の対策はありません。自分の農場のリスクを減らすには、過去のさまざまな事故事例を知り、同じようなリスクが自分の農場にないか考えることが有効です。しかし、それを人で見つけるのは容易ではありません。

そこでオススメするのが、家族や従業員、地域の人などとみんなで取り組むことです。大分県のある法人では、農作業におけるリスクと改善策をみんなで話し合い、毎月の定例会ではヒヤリハット事例を共有しています。小さなことからで良いので、つひとつ改善を重ねていくことが大切です。

北海道では機械の大型化が進み、より危険だと感じる方も多いと思いますが、事故事例を踏まえて死角や作業位置の高さなど危険な要素を見つけてうまく対策できれば、作業の効率化・軽労化によって、むしろ安全対策にもなり得ます。北海道はJAを中心に地域のつながりが強く、安全対策のレベルも高いと感じます。日本の農業を引っ張るトップランナーとして、労働安全でもトップを走っていただきたいと思います。

皆さんが安全対策に取り組む手がかりとして、農研機構のWebサイト内の「農作業安全情報センター」(写真1)に掲載した事故事例や対話型研修ツール、JA共済連と共に開発・運用している「農作業事故体験 VR」(写真2)も、ぜひ活用してください。

 

写真1.農研機構Webサイト「農作業安全情報センター」
写真1.農研機構Webサイト「農作業安全情報センター」

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写真2.農作業事故体験VR
写真2.農作業事故体験VR
(左)体験できるVR(バーチャル・リアリティ)映像
(右)イベント時に専用のヘッドセットをつけて擬似体験する様子

ちいきのきずなHP

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