省力化最前線4 直播栽培

地域の仲間と直播を推進

キーワード:えみまる水稲省力化

地域の仲間と直播を推進

 

この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。

 

田んぼに直接種を播くことで、育苗の手間を省ける直播栽培。簡単な技術ではありませんが、25年前から仲間と一緒に学び、地域一体となって取り組んできたのが妹背牛町です。

取材日 2019年7月1日

 

熊谷 勝さん

妹背牛町 熊谷 勝さん

「大事なのは採算性です。
自分に合った省力化の技術を選んで、早く取り組んだほうがいい」

 

Profile:経営面積32haのうち、水稲23ha、ほかに黒大豆と秋播き小麦を作付け。2017年より妹背牛町水稲直播研究会会長。1963年生まれ。

 

直播は規模拡大のアイテム

妹背牛町で直播を始めたのは1994年。「昔の人はたこ足で種籾を播いていたわけだから、直播でも育つのでは(写真1)」と、小さな田んぼに種籾をばらまいてみたのがきっかけです。

 

写真1.開拓期に旭川で考案された「たこ足黒田式播種機」
写真1.開拓期に旭川で考案された「たこ足黒田式播種機」。
16本の足から種籾を田んぼに直接播くことができます。本州のような苗代づくりが難しかった北海道で稲作が広まるきっかけになった農具です。移植栽培に移行する昭和10年代まで、広く使われていました。

 

その年は天候にも恵まれ10a当たりに換算して600kgもとれたことから「これはいけるんじゃないか」と、有志で取り組んでみることにしました。

最初は乾田直播にも挑戦しましたが、天候によって収量が左右されやすいため、湛水直播に切り換え、仲間と緒に勉強しながら研究会を組織。機械利用組合も設立し、補助金を活用してレーザーレベラー、湛水直播機、プラウなどを導入しました。機械には利用料金を設定し、その収益を維持費と更新費用に充ててきたそうです(写真2)。

 

写真2.妹背牛町水稲直播研究会のメンバーは約50軒

写真2. 妹背牛町水稲直播研究会のメンバーは約50軒。
写真2.妹背牛町水稲直播研究会のメンバーは約50軒。
機械利用組合を組織して、プラウ8台、条播き用の湛水直播機3台、点播き用の湛水直播機3台、ばらまき(散播)ができるブームタブラー2台を導入。
生産者は新たな投資をすることなく直播に挑戦できます。

 

2年前から直播研究会の会長を務める熊谷勝さんは、奥さんと息子さんの家族経営。水稲は移植が17.5ha、直播が6.1‌ha。直播は今年「えみまる」を4.3‌ha、「ほしまる」を1.8‌ha作付けしました。

「『えみまる』は、低温苗立ち性に優れ、登熱も早いです。穂数は多くないものの、穂が長く粒数が多い品種。去年、昨年と20aだけ試験栽培をしたら、収量が『ほしまる』対比で2割ほど多い」と期待を寄せます(写真3)。

 

写真3.取材時(7月1日)の「えみまる」
写真3.取材時(7月1日)の「えみまる」。「ほしまる」に対し、「えみまる」は分けつに時間がかかります。「分けつの時期に深水をしたり、除草剤をまいたりせず、十分に分けつさせて茎数を確保すれば、最終的な収量増につながる」と熊谷さん。

 

種籾は吸水させ催芽、水気をとって専用機械で播種します。乾いた籾で播く乾田直播より工程が増えますが、2週間ほどで芽が伸びるので、1カ月待たずに除草剤を散布できるのが利点です。

「田植機が1台だと適期移植は18〜20‌haが限界。それより面積が大きいと老化苗を使うことになってしまう。うちの育苗ハウスは17.5ha分なので、それ以上増える分は直播でいくつもりです」

 

直播のメリット・デメリット

直播のメリットは、まず春作業の省力化。「春作業は僕人で十分。息子とかみさんは別の仕事ができるため、家族に喜ばれます」と熊谷さん。また、水稲の生育を種から全て見られることも利点。「移植の米づくりも上手くなる」と強調します。更に、直播米は移植よりタンパク値がやや低いことも大きな魅力です。

一方、デメリットに挙げたのは二つ。10a当たり10‌kgと移植の3倍以上の種子量が必要なことと、除草剤を使うタイミングが難しいことです。

「移植も直播も、大事なのは採算性です。面積が増えると反当たりの収穫量を落としがちですが、それでは拡大した意味がないですから」

農家戸数の減少で、面積は今後も拡大せざるを得ないと感じています。

「これからは面積との闘い。省力化の技術はいろいろあるので、自分に向いているものを選んで、少しでも早く取り組んだほうがいい」

熊谷さんは無代掻きの湛水直播にも挑戦したいと考えています。

 

注目の省力化トピック

直播栽培向け新品種「えみまる(上育471号)」

ホクレン米穀総合課

 

直播栽培「えみまる」の食味官能評価の結果
直播栽培「えみまる」の食味官能評価の結果
※基準(0.0)は移植栽培「ななつぼし」
(道総研上川農業試験場提供)

 

「えみまる」は道総研上川農業試験場で開発され、今年から道内で本格的に栽培が始まった直播向けの新品種です。低温苗立性やいもち病抵抗性、玄米品質に優れるほか、食味官能試験では「ななつぼし」並みの評価を獲得しています。

2019年産は「ほしまる」からの切り替えを中心に、全道で500ha程度が作付けされており、ホクレンとしても今後の直播栽培の面積拡大に期待しています。