この記事は2023年6月1日に掲載された情報となります。
北海道立総合研究機構 中央農業試験場 水田農業部
水田農業グループ 主査 山下 陽子さん
Profile:埼玉県生まれ。大学進学を機に北海道に転居。北海道大学大学院農学研究科応用生命科学専攻修了。道立(現道総研)中央農業試験場遺伝資源部、同農試作物開発部生物工学グループを経て、2020年より水稲育種に従事。
多収でいもち病に強い品種が登場
国内の米の消費量のうち、弁当・加工食品などの中食や外食用に使われる米は約3割(農林水産省調べ)と重要な位置を占めています。中食・外食向けには長年「きらら397」と「そらゆき」が生産されてきましたが、それらに代わる品種として研究が進められていた「空育195号」が、2023年産から全道の普及展示圃で栽培開始、2024年産からは一般圃での栽培が開始されることになりました。
「空育195号」の優位性は、多収であることと、いもち病への抵抗性が強いことです。収量性については、面積当たりの収量(精玄米重)が「きらら397」に比べ18%多収と、かなり多くなっています(図1)。
また、地帯別の試験では、道内どこで栽培しても「きらら397」と比べ安定して多収を示しました(図2)。
そして、いもち病抵抗性は、葉いもち、穂いもち両方に対し「強」となっており、いもち病に強い品種「きたくりん」並みで、「きらら397」の課題が克服されました(図3)。
これにより、いもち病の本田防除が原則不要になり、薬剤コストの削減や防除の省力化も期待できます。収量が多いことと合わせ、収益性の向上が見込めます。
食味については、実需者である食品加工・外食業者からも「きらら397」並みという評価を得ています。加工適性についても、「きらら397」同様、粘りがそれ程強くないため汎用性が高いと評価されています。
収量・品質を確保するには施肥量を守り適期移植が原則
「空育195号」の栽培に当たっての留意点をお伝えします。「空育195 号」は籾数が多いため、1籾当たりの登熟温度が確保できないと、白未熟粒などが多くなって玄米品質がやや劣る傾向があります。
そこで、籾数を過剰に増やさないよう、北海道施肥ガイドに基づいた適切な施肥量を守ることと、成熟期が「きらら397」よりやや遅く、移植が遅れると登熟温度が確保できない懸念が高まるので、適期に移植することも大切です(図4、5、6)。
※図3〜6
4カ年のべ59カ所(標肥区44、多肥区15)の平均値
また、「空育195 号」は、穂重が重く、稈長が長いので、耐倒伏性も「きらら397」よりやや劣ります(図7)。倒伏リスクを避けるためにも適切な施肥量は重要です。
なお、2023年産の普及展示圃の栽培結果も踏まえて、2024年2月をめどに栽培マニュアルを公開予定です。今後、「きらら397」と「そらゆき」を栽培していた圃場は段階的に「空育195号」の栽培に切り替わることを見込んでいます。
「空育195号」は、中食・外食用途に適する極多収品種の育成を目標として、2014年度より育成を開始。多くの人が関わりながら約10年かけてさまざまな試験を行い、一般普及に見合う品種としてのリリースとなりました。生産者の皆さんには、安心して栽培していただきたいと思います。