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養液栽培システム「うぃずOne」を用いたトマトの2本仕立て栽培法

キーワード:うぃずOne

養液栽培システム「うぃずOne」を用いたトマトの2本仕立て栽培法

この記事は2022年6月1日に掲載された情報となります。

道総研 花・野菜技術センター 研究部 花き野菜グループ 研究職員 漆畑 裕次郎

道総研 花・野菜技術センター
研究部 花き野菜グループ 研究職員 漆畑 裕次郎

Profile:静岡県出身。北海道大学環境科学院修了。上川農業試験場勤務を経て2020年より現職。

POINT
●大玉トマトを養液栽培する時は、2本仕立て法により収量を維持しながら低コスト・省力化が期待できます。

養液栽培は塩類集積や土壌病害の危険性が低く、栽培がマニュアル化しやすいなどメリットが多い反面、多大な導入コストが課題です。そこでJ‌A全農が、設置と撤去が容易で水稲育苗後などの遊休ハウスを有効活用できる安価な養液栽培システム「うぃずOne」を開発しました。これは発泡スチロール製の栽培槽を用いた簡便なシステムで、2013年の本格販売以来、道内でも大玉トマト栽培などで導入が進んでいます。

道総研はこれまでに、「うぃずOne」を用いてミニトマトの2本仕立て栽培法を検討し、定植苗と栽培槽が1本仕立ての半分で済み、8割程度の収量を確保できることを提案しました。

今回はミニトマトと同様の低コスト・省力化を目指し、大玉トマトを対象に2本仕立ての試験を行いました。また、道内の大玉トマト栽培では気温が低下するお盆以降に裂果の発生が多く、問題となっていることから、裂果耐性品種もあわせて検討しました。

2本仕立て法と品種の選定で低コストで高い収量を実現

仕立て法と収量性の関係を調べたところ、いずれの品種でも、2本仕立ては1本仕立てと同等以上の収量を確保できました。また、尻腐果の発生も少なくなりました。尻腐果は草勢が強いと発生しやすくなりますが、2本仕立ては1本仕立てに比べ草勢がおとなしいため、少なくなったと思われます(図1)。

仕立て法と品種による収量性の違い(2021年)
図1.仕立て法と品種による収量性の違い(2021年)

良果収量を品種別に見ると、「麗月」では、10月以降の裂果の発生が圧倒的に少なく、高収量が得られました。この特性は、水稲育苗後のハウスを利用した夏秋どり栽培にとても適していると考えられます。なお、「麗月」は総収量が多いため、小果、乱形果などが多かったものの、発生率では他品種と大きな違いはありませんでした。

2本仕立て法の播種時期と給液量

今回は、育苗段階で主茎を摘心し、第1節側枝と第2節側枝を伸ばす2本仕立て栽培法で試験を行いました。この場合、側枝を伸ばすのに1週間ほど育苗期間を長くするため、1本仕立てよりも播種を1週間程度早める必要があります(表1)。

作型表
表1. 作型表

また、2本仕立ての栽植密度は1本仕立ての半分となるため(図2)、苗や栽培槽、潅水資材などの数も半分に減ることから、初年度の導入費用を4割程度削減できました(表2)。

1本仕立てと2本仕立ての模式図
図2. 1本仕立てと2本仕立ての模式図
「うぃずOne」導入費用(単年当たり、単位:千円/10a)
表2. 「うぃずOne」導入費用(単年当たり、単位:千円/10a)

なお、2本仕立ての1株当たりの給液量は1本仕立ての2倍量ですが(表3)、栽植密度が半分なので、面積当たりに換算した時の給液量は1本仕立てと同じです。

給液管理の設定
表3. 給液管理の設定

大玉トマトの養液栽培に活用を

2本仕立ては、1本仕立てと同等以上の収量を確保できるうえに導入コストを大きく削減でき、大玉トマトの養液栽培において有効な栽培法と考えられます。低コスト・省力化技術として、ぜひ、ご検討ください。

「うぃずOne」に定植した後のトマト
写真1. 「うぃずOne」に定植した後のトマト