この記事は2017年12月1日に掲載された情報となります。
道総研 花・野菜技術センター研究部 花き野菜グループ
研究主任 木村 文彦さん
Profile:北海道大学大学院農学研究科修士課程を修了。平成12年から上川農業試験場でほうれんそう、みずな、キャベツなどの栽培試験に従事。平成23年から花・野菜技術センター勤務。現在はいちごの品種育成と栽培試験を担当。
POINT!
「ゆきララ」は果実が大きくて多収の春どり栽培用いちご新品種です。
品種育成の背景
北海道の春どりいちご栽培で、現在、主につくられている品種は「けんたろう」です。「けんたろう」はその果実品質の良さから市場で高い評価を得ていますが、生産現場からは収量性の改善が求められています。
花・野菜技術センターではこの課題に対応するため、「けんたろう」と同等の果実品質でより多収の品種を目標として育種に取り組み、春どり栽培用いちご品種「ゆきララ」を開発しました(写真1)。
「ゆきララ」の特長
「ゆきララ」の最大の長所は、果実が大きく多収であることです。
「ゆきララ」は、無加温半促成作型(8月下旬頃に苗を圃場に定植し、越冬後マルチに加えトンネルおよびハウスにより保温して、5〜6月に果実を収穫する栽培体系)において、可販果の一果重が「けんたろう」の約1.3倍と大きく、「けんたろう」の約1.2倍の可販収量を得られます(図1)。
果実が大きいことから、生食用で求められる高単価なL規格以上の割合が「けんたろう」より高く(図2)、所得の向上が期待できます。
また、収穫期後半でも「けんたろう」より果実が大きく規格外の小果数が少ないため、収穫作業の省力化も見込まれます。
果実の品質など
果実の品質については、果形が短円錐、果皮色は鮮橙赤〜明橙赤で「けんたろう」と異なりますが(写真2)、外観および食味の評価は同等です。
果実中心部の空洞は「けんたろう」に比べてやや大きめですが、日持ち性は同等です。総合的に「ゆきララ」の果実は十分な市場性を有すると判断しています。
「ゆきララ」の生育の特徴として、「けんたろう」より草丈が高く果房数が少ないことが挙げられます。いちご栽培に大きな被害を与える土壌病害(疫病、萎黄病、萎凋病)に対しては「けんたろう」と同等以上の抵抗性を有します。
新品種への期待
「ゆきララ」の普及対象は全道のいちご栽培地域です。2018年から親苗販売が開始される予定です。試作段階で果房数の確保などの課題が挙げられたことから、安定生産に向けた栽培法の確立に取り組み、生産現場をサポートしていきたいと考えています。
「ゆきララ」の品種名は、北海道を連想させる「ゆき」と、雪どけ後、春に開花・収穫に向かう明るい感じを音楽の旋律のように表現する「ララ」を組み合わせて名付けました。「北海道の春のいちご」の認知度向上と安定供給に「ゆきララ」が貢献することを期待しています。