PART4 森 敬承さんに聞く「考える」

森さん、「考える農業」ってなんですか?

キーワード:園芸担い手確保
スイートレディ
「スチューベン」の木に、新しい品種「スイートレディ」を高接ぎ。休眠枝と緑枝の接ぎ木を成功させたのは、今のところ道内では森さんだけ。
この記事は2016年10月1日に掲載された情報となります。

 

森 敬承さん

北海道指導農業士協会
代表監事 森 敬承さん

果樹栽培において、誰も真似できない高い技術を持つ仁木町の森 さん。
自分なりに考え試してみる、技術研究の面白さとは。
「自分で考え試すことが面白い」
Profile:1957(昭和32)年、仁木町生まれ。農協青年部時代に、ニュージーランドの果樹農家で半年間の農業実習を経験し、刺激を受ける。JA新おたる管内でりんご、ぶどう、さくらんぼ、プルーン、ワインぶどうなどを栽培する果樹専業経営。昨年より北海道指導農業士協会の代表監事を務めている。

 

新しい技術や品種にいち早く挑戦

「果樹栽培は北海道では少数派。手厚いサポートもなく、新しい品種の情報も入ってこない。自ら先行してやらざるをえない環境でした」

仁木町で果樹栽培を手がける森敬承さん。さくらんぼには雨よけハウス、ぶどうには無加温ハウスをいち早く導入し、高品質・安定生産を実現してきました。ハウスで雨にあたるのを避け、内部をきれいに管理することで、病虫害を防止。農薬の使用も、花前、花後、落花10日後の3回だけで、通常の半分程度に減らすこともできました。

今は全道に先駆けて、新品種の導入に取り組んでいます。ひとつは、従来品種「スチューベン」に高接ぎしてつくる「スイートレディ」。ぶどうは休眠枝と休眠枝、緑枝と緑枝で接ぐ方法が一般的ですが、森さんは休眠枝と緑枝を接ぎ木する方法で成功させました。道内では森さんだけが持つ高度な技術です。

もうひとつは、高級品種「シャインマスカット」。仁木町では森さんともう1軒の果樹農家で試験栽培の最中です。細かなデータを集めて、北海道での栽培方法を検討中です。穂軸から水分補給すると長期の冷蔵貯蔵が可能なので、将来は海外への輸出も視野に取り組んでいます。

 

シャインマスカット
種なしで皮ごと食べられる新品種「シャインマスカット」。写真は生育過程でまだ小さいですが、高糖度で大粒、日持ちもよく、反収アップが期待できます。

 

モットーは「クリエイティブ」

チャレンジ精神旺盛な森さんのモットーは「クリエイティブ」。「もっとこうしたらいいんじゃないかと考えるのが好き」と言います。

そのために心掛けているのは、全国に果樹栽培仲間をつくること。「ネットで調べた情報は実際にどのように利用されているかわからない。実際に栽培している人に聞くのが一番」と、府県の試験場や果樹農家の視察で友人をつくり、年賀状やメールで情報交換を続けてきました。

もうひとつ意識しているのは、確立された技術を踏襲するだけではなく、自分なりのやり方を考えること。さくらんぼは受粉にマメコバチを利用しますが、ハチの数が不足して交配不良による不作が頻発したことから、森さんはマメコバチの生態を研究して巣箱や巣筒を自作。さらに開花期間の長いナタネをさくらんぼの近くに植え、ハチの活動を活性化させることで、マメコバチの増殖に成功しました。

 

マメコバチを増やすための巣筒
マメコバチを増やすため、直径4〜7ミリのヨシを刈ってきて巣筒を自作。ハチはこの筒の中に花粉を丸めて運んで産卵、泥で塞ぎます。

 

「自分で考えて、試してみるのが面白いんです」と言う森さん。若い農業者に伝えたいことを尋ねると「楽しくやったほうがいい、ということかな」と、一言。

「農業に向き合う姿勢は、誰かに教わるものじゃないと思うんですよ。品種だって次々新しいのが出てくるし、技術だってまだまだ進化する。それに対応できる考え方を持っていれば、もう一歩先へ行くことができると思うんです」

自分なりに根拠を考えて、試してみる。そのプロセスを楽しむことができれば、未来は開けてくるのでしょう。

 


吉岡美絵さん

後志農業改良普及センター 北後志支所
主査 吉岡 美絵さん

 

指導農業士として地域の牽引役です

私は初任地が北後志で、新人時代は森さんに果樹栽培をイチから教わりました。「自分で好きにやってみていいぞ」と、大事な木を貸してくださって…。おかげでハウスブドウ(バッファロー等)を種なしにするジベレリン処理に自信が持てるようになりました。

去年からは高級品種の「シャインマスカット」を、一緒に試験させてもらっています。誰もが栽培できるような技術をはやく確立させて、広く普及するのが目標。北海道は本州と収穫時期がずれるので、戦略的に売っていくお手伝いをしたいと思っています。