この記事は2023年12月1日に掲載された情報となります。
十勝清水町 上谷農場
上谷 雅俊さん
耕作面積は56ha。
父と妹と3人で小麦、てん菜、小豆、大豆、枝豆、
スイートコーン、玉ねぎを作付けしています。
てん菜の移植栽培は育苗や苗取りが重労働ですが、直播ならその省力化が望めます。ハウスや移植機も使わずコスト削減にも効果的。いち早く取り組んできた十勝清水町の上谷雅俊さんに、そのメリットと栽培のポイントを教えてもらいました。
最初の3年間は失敗続き
56haの耕作面積のうち、16haにてん菜を作付けしている上谷雅俊さん。17年ほど前から、いち早く直播にチャレンジしてきました。
「ウチはもともと酪農をしていましたが、私が21歳のときに牛を辞め、親父はコントラ作業に、私は農業生産法人に勤めたんです。でも、いずれは自分のところで畑をやりたいと思っていました」
29歳のころには、会社に出勤する前後の朝晩や休日を使って、実家の25haの畑にてん菜や小豆や枝豆を作付けするようになります。
「勤めていた会社では移植でてん菜を栽培していましたが、うちはハウスもないし移植機もない。直播でいくしかないな、と試してみることにしました」
まだ周りは移植の人がほとんどだった2006年。普及員の方などに聞きながら手探りで取り組んだものの、最初の3年間は失敗続きでした。
「最初の年は10a当たりの収量がわずか3t。会社員として給料をもらっていたので、肥料と農薬分くらいは稼がないと、という思いでした」
直播のポイントは三つ
徐々に分かってきたのは、土のpHが低すぎると生育にムラや障害が出ること、5月に強風が吹くと被害を受けるリスクが高いこと。種を播き直した年もありました。
2011年、農業を辞める親戚の畑を借り受けることになり、13年勤めた会社を辞めて独立することを決心。34歳のときでした。
「会社と家の畑を掛け持ちしていた5年間はもう大変で…。面積が増えるなら、そろそろ専念したほうがいいなと思ったんです」
日中も家の畑を管理できるようになってから、ようやく安定して収穫できるようになりました。
上谷さんが直播のポイントだと指摘するのは、「畑づくり」と「播種時期」と「風害対策」の三つです。
畑づくりではバランスの整った土にするため、毎年土壌診断を行いpHを調整。年数を掛けて塩基飽和度を少し高めに整えました。
播種のタイミングは4月中旬から下旬、あまり焦らずに地温が十分に上がって土が乾いてから播くようにしています。
早く播きすぎて1カ月近く芽が出なかった年もあったそうです。また、播いてすぐに大雨が降ると、土が硬くクラストになって発芽に影響するので、天気予報の確認も欠かしません。
風害対策にはエン麦を播くのが上谷さん流。エン麦が先に丈を伸ばし、生えかけのてん菜を守ってくれるからです。てん菜がある程度大きくなった5月中旬にイネ科用の除草剤で処理します。
このように6月上旬までは何かと気を遣いますが、中旬以降の管理は移植栽培と変わりません。
経験を積み重ねて、独自の栽培ノウハウを確立した上谷さん。「直播は干ばつに強いのではないか」と考えています。
移植栽培では、移植時などに苗の主根が切れてしまうのに対し、直播は主根が真っすぐに土の深くまで伸びるので、水分不足に強いと感じるそうです。
いかにリスクを軽減するか
上谷さんの場合、収量は移植より少し減りますが、苗づくりのハウスや燃料代、移植の際の人件費など、労力やコストが軽減できるのは大きなメリットです。
「限られた労働力でも直播ならてん菜をつくり続けられます。移植機の更新時期を迎えている人は直播に切り替えるのも手だと思う。ただし風害などのリスクはあるので、そこをどう小さくしていくかが課題ですね」