秋播き小麦におけるコムギ縞萎縮病対策

キーワード:コムギ縞萎縮病殺菌剤輪作体系
石狩北部地域 コムギ縞萎縮病発症圃場(赤色圃場)
写真1. 石狩北部地域 コムギ縞萎縮病発症圃場(赤色圃場)

カテゴリー:実証試験
実施年度:2020~2023年度
対象:JA北いしかり・JAいしかり・JA新しのつ
実施:札幌支所営農支援室
協力関係機関:石狩農業改良普及センター石狩北部支所

POINT
●コムギ縞萎縮病の低減に向けた栽培管理方法の確立

この記事は2022年11月1日に掲載された情報となります。

コムギ縞萎縮病の発生

石狩北部地域(石狩市、当別町、新篠津村)の秋播き小麦「きたほなみ」作付圃場において、融雪後の小麦に葉の黄化症状や萎縮症状が多発。発生状況調査と病理診断から、土壌中の微生物が媒介するウイルス病「コムギ縞萎縮病」と同定されました。コムギ縞萎縮病は道内の主要な小麦栽培地帯のほぼ全域に広がっており、重症になると収量の低下をもたらします。

秋播き小麦は石狩北部地域における経営の屋台骨であり、コムギ縞萎縮病対策による生産性確保は喫緊の課題です。

発生実態の把握

2021年度4月下旬の調査では、「石狩北部地域」の秋播き小麦全圃場のうち172圃場で黄化症状を確認し、病理検診でコムギ縞萎縮病が検出されました(写真1・2)。

発症程度左から小・中・大
写真2. 発症程度左から小・中・大

この中には、同一生産者が異なる地域で所有する圃場での発生もあり、重機による土の移動が感染拡大につながることが示唆されました。

殺菌剤を用いた防除効果確認

病害への対策として、秋の播種前に殺菌剤「フロンサイドSC」の効果確認試験に取り組みました。本剤を播種前に土壌混和することで、生育初期の根への感染を軽減でき、起生期の発症抑制や生育確保の効果が確認されました(表1・2、写真3)。

2021年秋試験 生産者圃場ごとの生育初期病原密度(根)
表1. 2021年秋試験 生産者圃場ごとの生育初期病原密度(根)
2021年秋試験 収量調査結果
表2. 2021年秋試験 収量調査結果
殺菌剤施用効果(枠線内無処理区)
写真3. 殺菌剤施用効果(枠線内無処理区)

栽培方法確立へ調査継続

2020年度の試験では、播種前の薬剤施用による根の感染抑制が寄与したものと考えられる病気の発症抑制と生育向上の傾向が見られました。しかし、最終収量と発症程度・生育に明確な相関性は見られず、費用対効果も判然としませんでした。

コムギ縞萎縮病が多発する地域は、総じて収量性が低い傾向にあり、その背景には、水田転作畑ゆえの土壌透水性の悪さや小麦の連作による酸度低下・土壌硬化などの悪影響が考えられます。

今後は、本実証を通じてコムギ縞萎縮病の発生要因を解明し、薬剤施用だけではなく、土壌透水性の改善や輪作体系の確立など(図1)、持続可能な圃場生産性の向上を目指す取り組みを進め、同じ課題を抱える産地間での情報共有を図っていきます。

北石狩型輪作体系の例
図1. 北石狩型輪作体系の例