この記事は2021年10月1日に掲載された情報となります。
道総研 十勝農業試験場
研究部 農業システムグループ 主査 関口 建二
Profile:長岡技術科学大学大学院工学研究科修了。1995年道立根釧農業試験場に入庁。中央農試、根釧農試を経て現職。農業機械、農業施設に関する研究に従事。札幌市生まれ。
POINT
❶過去の衛星データ(生育マップ)を使って起生期の追肥ができます。
❷幼穂形成期以降のセンサを使った施肥と組み合わせると収量が高位安定化します。
これまでに道総研では、車載型生育センサを使用した可変施肥技術(センサベース可変施肥)を、秋播き小麦の幼穂形成期以降の追肥に適用することで、収量や品質などが改善されることを示してきました。また、てん菜や馬鈴しょでは、前作の生育センシングから地力ムラを推定し作成する施肥マップを使用した可変施肥技術(マップベース可変施肥)が、過剰な施肥を抑え収量の改善を図る効果を実証しています。
秋播き小麦の起生期に可変施肥を導入
今まで秋播き小麦の起生期は生育をセンシングすることが難しく、可変施肥技術を起生期追肥で適用することは推奨されていませんでした。そこで、衛星データを利用したマップベース可変施肥を秋播き小麦の起生期追肥に導入するとともに、幼穂形成期(幼形期)以降のセンサベース可変施肥と組み合わせた追肥体系の効果を検証しました(図1)。
衛星データで前作の生育を把握
人工衛星から取得した生育マップは、車載型生育センサと同様に圃場内の生育のばらつきを把握できます。このマップから、圃場内の生育良否箇所が毎年同じ傾向を示した場合は、前年以前の生育マップを秋播き小麦の起生期可変施肥に利用できます(図2)。
起生期の可変施肥効果
可変施肥と定量追肥を起生期に適用し実証した結果、可変施肥を適用した圃場は次のような効果が見られました(図3)。
①毎年生育良好箇所は製品歩留まりの低下が抑制された。
②毎年生育不良箇所は穂数が増加した。
早期から複数回の適用が効果的
図4は秋播き小麦の可変施肥は早期から適用すると効果的なことを示しています。秋播き小麦の幼形期以降に1回および複数回適用した体系と、起生期から適用し幼形期以降と組み合わせた体系の収量を比較し実証しました。
幼形期以降を対象とした場合でも、1回のみ適用した体系より複数回適用した体系では収量が多くなっています。
更に、起生期以降から適用を開始し、幼形期以降の適用と組み合わせることで製品歩留まりが改善し、製品収量が向上しています。
可変施肥技術は、地域で推奨されている追肥時期や施肥量などの追肥体系を基準として使用する技術です。秋播き小麦の起生期から可変施肥を適用する追肥体系は、生育不良箇所の穂数増加による収量底上げと、生育過剰箇所における製品歩留まり向上を両立する収量安定化技術としてご活用ください。