北海道産さつまいもの貯蔵、加工特性と栽培技術

キーワード:キュアリングさつまいも
この記事は2023年12月25日に掲載された情報となります。

 

野田智昭さん

北海道立総合研究機構
農業研究本部 上川農業試験場 研究部
生産技術グループ 野田 智昭さん

Profile:1994年岐阜大学大学院農学研究科修士課程修了
1998年北海道庁入庁(道営競馬事務所)、2023年より現職。

 

POINT
❶栽培に使用するマルチの色が収量に影響します。
❷さつまいもの長期貯蔵には、キュアリングの効果が高い。

 

さつまいもの国内主産地である西南暖地では病害の広がりと生産者の高齢化により、生産減少の傾向にあるため、北海道が新たな供給地として注目されています。
道総研では2012年から栽培法に関する試験を開始し、栽培マニュアルを作成しました。その後、加工時の特性などを明らかにして、2023年に本稿で紹介する貯蔵特性と栽培法の改善に関する成績をホクレン農業総合研究所と共同で取りまとめました。


栽培に使用するマルチの色

写真1.マルチ色の違いが定植約3週間後のさつまいも(ベニアズマ)の生育に与える影響(左から透明、緑色、黒色)
写真1.マルチ色の違いが定植約3週間後のさつまいも(ベニアズマ)の生育に与える影響(左から透明、緑色、黒色)

 

マルチの色は地温に影響し、それが苗の速やかな活着や初期生育、最終的な収量などに影響すると考えられたため、マルチの色の比較試験を行いました。

試験には透明、緑(ライトグリーン)、黒の3色を用い、地温、収量などを比較しました。マルチ下の畦内地温は測定位置(畝上部)が茎葉に被覆される7月中旬までの期間において、日平均地温の平均が緑マルチに比べて、透明マルチで1.5〜1.6℃高く、黒マルチで1.3〜1.7℃低くなりました。北海道のさつまいも栽培におけるマルチの目的は、土壌水分の保持とともに、定植期に地温を確保し活着から初期生育を促す効果があります。本試験では初期生育の測定は行いませんでしたが、透明>緑>黒の順で初期生育の差が観察されました(写真1)。
収量は年次による差はありましたが、各品種おおむね透明>緑>黒の順で収量が高くなりました。

 

キュアリングの効果

キュアリングは塊根収穫時についた傷をコルク化させて貯蔵性を上げる作業で、室温30℃、湿度90%以上のキュアリング庫で4日間程度処理するのが理想とされています。「ベニアズマ」「べにはるか」「シルクスイート」についてキュアリング(30℃90%)の有無による貯蔵中の正常芋の推移を図1に示しました。

6月まで貯蔵を行ってキュアリングの有無による正常芋(腐敗、軟化、カビ、陥没などの異常を認めない芋)率の推移を見たところ、各品種6月の最終調査までキュアリング処理が正常芋の減少を抑えていることが認められました。つまり、キュアリングの効果は長期にわたり持続することが示されました。

図1. 貯蔵中の正常芋率推移における品種およびキュアリングの影響 (2021年産) 正常芋率:右記の異常を認めない芋の割合。カビ、萎れ、黒変、軟化、陥没
図1. 貯蔵中の正常芋率推移における品種およびキュアリングの影響 (2021年産)
正常芋率:右記の異常を認めない芋の割合。カビ、萎れ、黒変、軟化、陥没

 

加工品質について

<焼き芋>

北海道産さつまいもを焼き芋として加工した場合、食味官能調査から道外産に比べて粘質で甘みや風味を感じやすい傾向が見られました(表1)。焼き芋は伸びの見られる商材であり、近年は粘質で“しっとり”とした食感が好まれる傾向にあります。この面で北海道産さつまいもの粘質の食感は有利な特徴であると推察されました。

表1.加工月別の焼き芋の内部成分および食味官能評価(2021年産 ホクレン農業総合研究所調査)
表1.加工月別の焼き芋の内部成分および食味官能評価(2021年産 ホクレン農業総合研究所調査)

 

<スイートポテト>

北海道産さつまいもを用いてスイートポテトを試作しました。ホクレン農業総合研究所において、さつまいもの配合比率82%で試作を行ったところ、11月加工では道外産の芋を使った場合に比べて、甘みと風味が高く評価され、総合評価(好み)も高く評価されました(表2)。

表2. スイートポテト試作評価(2021年産 ホクレン農業総合研究所調査)
表2. スイートポテト試作評価(2021年産 ホクレン農業総合研究所調査)

しかし、作業性においては材料混合時の水っぽさ、成型時の保形性で劣る傾向にありました。一方で、主原料であるさつまいもの性質に合わせて副原料の配合割合などを調整することで改善可能とのコメントが製菓業者から得られました。

これらのことから、北海道産さつまいもを加工原料として使う場合には、肉質が粘質で水っぽく、成形加工時に保形性が劣るといった特徴があります。一方、甘み風味が強く感じられやすく、年内の加工時期であればより道外産に比べ特徴を生かすことができると示されました。北海道産さつまいものこの性質を生かした原料配合や加工法を工夫することが重要と考えられます。

写真2.スイートポテト官能評価(左)と焼き芋官能評価(右)(提供:ホクレン農業総合研究所)
写真2.スイートポテト官能評価(左)と焼き芋官能評価(右) (提供:ホクレン農業総合研究所)