この記事は2017年10月1日に掲載された情報となります。
ホクレン 肥料農薬部 技術普及課
POINT!
・ドローンによる秋まき小麦雪腐病防除の効果を確認し、ほぼ同等の結果でした。
・ドローンによる農薬散布では高濃度の薬液を使用するのでドリフトにも留意が必要です。
1.航空法改正とドローンによる農薬散布
2015年の航空法改正に伴い、小型無人航空機(ドローン)での農薬散布が可能となりました。ホクレンでは、ドローンによる農薬散布技術の実用化検証と普及を目的に、農研機構 北海道農業研究センター、(株)エンルートと連携し、防除効果やドリフト状況などを調査しました。その結果を紹介します。
<試験概要>
ア.散布機械
(ア)ドローン:エンルート社Zion AC1200(試作機)、タンク容量10L
(イ)スプレーヤ:共立BSM1104SB-EV3、タンク容量1100L
イ.供試薬剤及び散布水量
(ア)ドローン:モンカットベフラン4倍、ランマン8倍、800mL/10a
(イ)スプレーヤ:モンカットベフラン500倍、ランマン1,000倍、100L/10a
※ともにグラミンS 5,000倍を加用
ウ.薬剤散布日:平成28年11月17日(風速0.6m/s)
エ.飛行高度:2m
オ.根雪期間:平成28年12月6日~平成29年4月3日
カ.対象病害:コムギ雪腐褐色小粒菌核病(薬剤処理後に菌を接種)
キ.調査月日:平成29年4月4日
ク.試験場所:ホクレン長沼研究農場
2.実用化と普及に向けた試験の概要とドローンによる農薬散布
❶秋まき小麦の雪腐病に対する防除効果確認
ドローンとスプレーヤで農薬を散布した際の農薬の付着状況、ならびに防除効果を比較するため試験を行いました。
ア.薬液の付着状況
薬液が付着すると、付着した箇所が青く変色する感水紙を圃場内5カ所に設置し、付着状況を確認しました。散布量はスプレーヤでは100L/10a、ドローンでは800mL/10aでした。
スプレーヤ区は薬液が感水紙全面に付着しているのに対し、ドローン散布区では高濃度の薬液がまばらに付着した結果となりました(写真1)。
イ.コムギ雪腐褐色小粒菌核病に対する防除効果
散布翌年の春、雪解け直後に両区の病害発生状況を調査しました。ドローン区は散布時の薬液付着はまばらの状況でしたが、防除効果はスプレーヤ区とほぼ同等でした。(図1・写真2)
❷飛散(ドリフト)状況の確認
散布部分以外の場所に感水紙を配置し、適正高度2mで散布した場合、どれだけ離れたところまで薬液がドリフトするか(飛散するか)調査しました。今回、風速1.5m/s以下の適正な条件下での散布となりましたが、風下側では10m離れた箇所においてもドリフトが認められました(図2)。
<試験概要>
ア. 散布機械:エンルート社 Zion AC940-D、タンク容量5L
イ. 散布水量:800mL/10a
ウ. 飛行高度:2m
エ. 試験場所:北海道農業研究センター
オ. 試験実施日:平成28年9月5日
3.ドローン散布の効果と留意点(まとめ)
ドローンで農薬を散布した際の秋まき小麦雪腐病に対する防除効果は、ブームスプレーヤ散布とほぼ同等であったことから、圃場条件が悪く、地上防除に入れない場合等において有効な手段となる可能性が示されました。
また、今回の試験ではドローン直下から10m離れた地点でもドリフトが認められました。風速や風向によってはさらに離れた地点においてもドリフトの可能性が考えられます。
ドローンで散布する農薬の散布液は通常の散布液より高濃度であることから、ドリフトした場合の残留リスクは高まると考えられ、散布の際には、風速や風向きに十分留意する必要があります。
空中散布等における無人航空機利用技術指針より
●ドローンは、下降気流(ダウンウォッシュ)が小さく、風の影響を受けやすいことから、風向きを考慮し、散布液・粒剤が飛散しないよう十分注意する。
●農作物に近い高度で飛行するため、散布等の均一性を確保することが難しいことから、飛行速度や飛行高度、飛行間隔の保持に努める。
●散布は気流の安定した時間帯に、風速が3m以下の場合に実施する。