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受光効率を高め「きたほなみ」を安定して穫る

キーワード:きたほなみ小麦秋播き小麦追肥

受光効率を高め「きたほなみ」を安定して穫る

この記事は2024年2月21日に掲載された情報となります。

北海道立総合研究機構 中央農業試験場
農業環境部生産技術グループ 主査 杉川 陽一

Profile:北海道大学大学院地球環境科学研究科修了。
2005年中央農業試験場岩見沢試験地に入庁、
2009年から現在まで中央農業試験場本場に配属。
主に小麦栽培に関する研究に従事。福井県出身。

POINT
幼穂形成期に重点をおいた追肥は、受光態勢の向上や安定生産に有効です。各生育期節の生育指標を満たすことで、適切な目標穂数や良好な群落受光態勢を確保できます。

 

秋播き小麦「きたほなみ」は、
多肥を避け、起生期を無追肥として幼穂形成期(以下、幼形期)に追肥し、登熟期間の群落の受光態勢を良好に保ち、
確保する穂数を登熟期間の天候不順の影響が小さい550〜650本/㎡とすることで、収量・品質が安定します。
幼形期重点追肥で受光態勢が向上する仕組みや道央地域での具体的な施肥対応、道央・道東地域の生育の目安を紹介します。

追肥時期と受光態勢

登熟期間の受光態勢が重要なのは、小麦の収量がこの時期の光合成の量で決まるためです。受光態勢は葉の面積(葉面積)と角度で決まります。葉面積は少なすぎると光を逃してしまいますが、多すぎて過繁茂でも受光態勢が不良となるので、ほどほどが理想です。葉の角度は立って直立に近いほど群落内部に光が入り、良い草姿といえます。葉が垂れると、群落上部で光が遮られてしまいます。

試験の結果、融雪後最初の追肥時期で、葉面積と葉の角度が変わることが分かりました。起生期追肥では葉面積指数(1㎡当たりの葉面積)がやや過剰だったのに対し(図1)、幼形期重点追肥では2.8〜3.5の適度な範囲(表1)に収まりました。また、葉の角度が起生期追肥より直立し、受光態勢が向上しました。

多雪地帯で春先に作土の窒素が少ない道央では、起生期が無追肥だと幼形期にかけて葉色が薄くなるため追肥したくなりますが、幼形期頃の葉色が薄いと葉が短くなります。追肥して葉色が濃いと葉が長くなり、立った状態を支えきれず垂れやすくなります。葉の長さをコンパクトに保つことが、良好な受光態勢確保に重要です。

表1. 安定生産に向けた茎数・葉面積の目安
表1. 安定生産に向けた茎数・葉面積の目安
1)オホーツク沿海は除く。登熱期間中の日照が多いため、従来通り。
2)葉面積は上から3枚の葉が対象。葉1枚面積=0.8×長さ(㎝)×幅(㎝)。
    穂1本面積は葉3枚分を足し合わせる。葉面積指数=穂1本面積(㎠)×穂数(本数/㎡)

 

図1. 融雪後最初の追肥時期別の葉面積指数と止葉の角度
図1. 融雪後最初の追肥時期別の葉面積指数と止葉の角度

 

 

道央地域でも幼形期重点追肥で収量を確保できる

2020、2021年の登熟期間の日射量は平年並から多めで、起生期追肥体系や多肥で多収となりやすい条件でした。しかし、標準施肥量での幼形期重点追肥の収量は起生期追肥とほぼ同じでした(図2)。天候不良年では幼形期重点追肥の方が減収しにくいので、複数年の平均収量は高くなると考えられます。
方、多肥では幼形期重点追肥で減収しました。多量の窒素を追肥時期を遅らせて度に追肥すると、生育・収量がかえって悪化します。

図2. 道央における追肥時期別の製品収量
図2. 道央における追肥時期別の製品収量
標準施肥量は窒素6kg/10a、多肥は窒素10kg/10a

 

道央地域の施肥対応

安定生産に向け、起生期茎数による施肥対応を表2のように行います。
起生期に無追肥が受光態勢向上のポイントなので、茎数1000本/㎡の確保に努めましょう。茎数が多すぎると穂数や葉面積が過剰となるため、適期適量播種が重要です。

表2. 安定生産に向けた道央地域の施肥対応
表2. 安定生産に向けた道央地域の施肥対応

 

安定生産に向けた生育の目安

表1は、道央・道東地域で安定生産を目指す際の各生育期節の茎数と、登熟期間中の受光態勢を確認するための葉面積の目安です。穂1本葉面積は測定労力が大きい葉の角度を代替でき、54㎠以下なら葉が垂れることはほとんどありません。
登熟期間に穂数600本/㎡前後の小麦を真上から見ると、地面が見えるぐらいでしたが(写真1)、製品収量は約700kg/10aでした。受光効率を高めれば、このぐらいの生育で十分であり、茎数や葉面積の目安の確認により栽培管理上の改善点を見つけられます。

写真1. 受光態勢が良好な群落の登熟期間の様子(真上から撮影)
写真1. 受光態勢が良好な群落の登熟期間の様子(真上から撮影)