牧草地における適正施肥モデルの構築

キーワード:デーリィNaviホクレン訓子府実証農場飼養管理
写真1. 2023年1番草収量調査の様子
写真1. 2023年1番草収量調査の様子
この記事は2023年10月13日に掲載された情報となります。

カテゴリー:生産振興
実施年度:2020~2025年度
対象:JA道東あさひ
実施:中標津支所営農支援室
協力関係機関:根室農業改良普及センター

 

POINT
●牧草地の植生悪化を防ぐため、飼料設計まで考慮した適正施肥が必要
●適期刈り取りにより、牧草の品質を高め飼料設計単価の低減が可能

 

施肥量削減だけでなく、飼料コストと品質を考える

根室管内では多くの牧草地で植生の悪化が課題となっています。その要因には次の点などが考えられます。

  1. コスト低減だけを意識した要素量削減。
  2. 管理や施肥の簡便さからマメ科率を考慮しない施肥管理。
  3. 石灰の施用が足りないため圃場のpHが低い(図1)。
  4. 管内では草地更新の施工業者が不足しており、草地更新が容易に行えない。
図1. JA道東あさひ管内の圃場pH(2020年度土壌分析結果より(n=721))
図1. JA道東あさひ管内の圃場pH(2020年度土壌分析結果より(n=721))
2020年度の土壌分析において67%の圃場でpHが6.0を下回っている。北海道施肥ガイドではpHが6.0を下回ると40kg/10aの炭カル類の施用が必要とされているにもかかわらず、管内の石灰施用量は以前から低く、平均10.4kg~14.5kg/10aで推移している。平均施用量は草地更新で使用された炭カル類も入った平均のため、維持畑では更に施用量が少ない。

牧草地の植生が悪化すると、粗飼料の品質が低下。結果として乳牛の生産性低下や購入飼料費の増大へつながってしまいます。

また、植生が悪化することにより、収量は減少。収穫時期を遅くすることで不足分をカバーすると、更なる粗飼料品質の悪化につながってしまいます。

この悪循環を断ち切り、単なる要素量削減によるコストダウンにとどまらない、飼料全体のコスト削減と品質向上を図るために、北海道施肥ガイドを基に牧草地における適正施肥モデル構築を実施しました。

複数年にわたって同一圃場を定点観測することで検証

J‌A道東あさひと根室農業改良普及センターに協力をいただき、管内の慣行の要素量と北海道施肥ガイドに基づいた要素量の試験区を設置。

単年度ではなく2025年まで複数年にわたり、同じ圃場を調査し、定点観測を行います。調査内容は次の通りです。

  1. 生育調査
  2. 収量調査
  3. 粗飼料分析
  4. 植生調査
  5. 土壌分析
  6. スラリー分析

これらの調査により植生の経年変化を検証するとともに、粗飼料分析と飼料設計によるコスト試算を行い、飼料を含めた経営全体のコストダウンがどれだけ図れるか検証する予定です。

適期刈り取りにより、品質を高め、コスト削減につなげる

2022年度に関しては、推奨施肥の試験区を設置して1年しか経っていないため、植生、粗飼料分析結果ともに大きな差は見られませんでした(表1)。

表1.牧草品質分析結果(主要項目抜粋)
表1.牧草品質分析結果(主要項目抜粋)

しかし、試験区の収穫時期の比較では刈り遅れの品質が劣る結果に(表4)。そのことにより約150円/日/頭分、飼料設計単価が高くなったことから、適期刈り取りはコスト削減に有効といえるでしょう。

表2.適期刈り取りでの比較(試験区と対照区)
表2.適期刈り取りでの比較(試験区と対照区)
1番草の粗飼料分析を生草で行ったためDM(乾物率)を25%で試算

 

表3.刈り遅れでの比較(試験区と対照区)
表3.刈り遅れでの比較(試験区と対照区)
1番草の粗飼料分析を生草で行ったためDM(乾物率)を25%で試算

 

表4.試験区の適期刈り取りと刈り遅れとの比較
表4.試験区の適期刈り取りと刈り遅れとの比較
1番草の粗飼料分析を生草で行ったためDM(乾物率)を25%で試算
※飼料単価は設計時点での参考価格です

また、適期刈り取りは粗濃比が高く、粗飼料をより活用した飼料設計ができるメリットがあります。

結果はJ‌Aを通じて情報提供

2021年から毎秋行っている植生調査、土壌分析に加え、2023年からはスラリー分析結果も踏まえて施肥設計を実施。試験区と慣行区との牧草収量、品質、飼料設計コストの比較も行い、調査から得られた実績は、管内J‌A職員や生産者への講習会(写真2)を通じて情報発信していきます。

写真2.JA標津講習会で行われた個別相談の様子
写真2.JA標津講習会で行われた個別相談の様子