道総研 農業研究本部 酪農試験場

北海道の牛舎に適した暑熱対策とは?

キーワード:換気暑熱対策気候変動牛舎高温
写真1牛床上に送風機を設置した牛舎
写真1.牛床上に送風機を設置した牛舎
牛床の上に送風機を設置することで、直接牛の体に風が当たり、体感温度が下がります。暑熱期には、牛舎内の平均風速が常に1m/s以上になるように設置するのが望ましく、高温時には2m/s以上が理想的とされています。風速1m/sで牛の体感温度が約6℃、2m/sで約8℃下がるとされています。
この記事は2025年8月1日に掲載された情報となります。

道総研田辺智樹さん

道総研 農業研究本部 酪農試験場
酪農研究部 乳牛グループ
研究主任 田辺 智樹さん

 

乳牛は暑さに弱く、気温が高くなると暑熱ストレスによる影響が懸念されます。道外の牛舎で行われている暑熱対策は、北海道の牛舎でも同様に効果があるのでしょうか。現在、酪農試験場で研究が進められています。

 

POINT

  • 牛舎内のTHI(温湿度指数)を意識する

  • 送風機を増設し、牛舎内の風速を1m/s以上に保つ

  • 送風機の風は牛の体に直接当てる

  • 夜間も換気設備を稼働させる

  • 換気扇や送風機などの換気設備は定期的に清掃する

 

気温上昇で乳牛のストレス増加

—近年の気候変化は乳牛にどのような影響を与えていますか。

夏の気温上昇に伴い、牛舎内の温度・湿度が上昇し、乳牛の暑熱ストレスが増加しています。採食量や乳量が減少するだけでなく、繁殖成績も低下します。乳生産性や繫殖成績の低下は、酪農家の経営面に大きな影響を与えます。

—道外と同じような暑さ対策が必要ですか。

道外の開放型牛舎とは異なり、雪対策が必要な北海道の牛舎の多くは閉鎖型。道外の牛舎で使われている暑熱対策設備が北海道の牛舎でも同様の効果があると言い切るにはデータが少なく、検証が必要と考えています。

—乳牛に理想的な環境とは?

体温調節にエネルギーを余分に費やす必要のない温度環境の範囲は、ホルスタイン種の場合、成牛で4〜25℃、子牛で15〜25℃といわれています。温度だけでなく湿度も関係しており、乳牛はTHI(温湿度指数)が72を超えると暑熱ストレスを感じるとされていますが、最近ではTHIが68や65でもストレスを受けるという報告もあります。

—すぐ取り組める対策は?

取り組みやすいのは送風機の増設です。フリーストール牛舎の場合は、牛床や採食エリアへ優先的に設置してください(写真1)。

送風機の風が直接牛の体に当たるようにすると、牛の体感温度が下がります。

また、気温が下がる夜間も送風機や換気扇などの換気設備を稼働させることで、外気との温度差が小さくなり、日中の温度上昇を抑えられます。

—換気設備の適切な台数とは?

大型のフリーストール牛舎における換気設備(写真2)の必要台数や稼働方法について検討した研究は、これまでほとんどありませんでした。

 

写真2トンネル換気の大型フリーストール牛舎-
写真2.トンネル換気の大型フリーストール牛舎
牛舎の妻面に大型の換気扇を並べて取り付け、換気扇により牛舎内の空気を排出し、もう一方の妻面から新鮮な空気を取り入れて換気します。

 

そこで、実態調査などに基づいてガイドラインを作成しました。牛舎を新築する際の換気設備の設置台数や消費電力をシミュレーションできる設計シートも作成し、昨年5月から配布しています(写真3)。本来は新築向けですが、既存牛舎の送風機の増設にも活用されています。

 

写真3.成牛舎換気計算シートなど
写真3.「成牛舎換気計算シート(左)」
    「哺育牛舎陽圧ダクト換気設計シート(中)」
    「成牛舎送風機配置計画シート(右)」
牛舎に必要な換気扇および送風機の台数を割り出し、どのように配置すべきかシミュレーションできます。
お問い合わせは酪農試験場 酪農研究部 乳牛グループ(0153-72-2004)へ。

 

—暑熱対策で気をつけることは?

送風機の増設による牛舎内環境の改善には限界があるため、費用は掛かりますが、屋根に断熱材を入れるほうが、更に高い効果が期待できるでしょう。

大掛かりな工事が難しい場合は、牛の体感温度を下げるために床置きタイプの送風機を導入したり、飲水量を確保するために水槽の清掃や増設を行うことも暑熱対策として効果的です。送風機や換気扇のほこりを掃除するだけでも、風量が増加します。

今年は、水を霧状に噴霧するフォグの効果について、実態調査に取り組んでいます。

この調査は、道内の乳用牛舎を対象に、フォグの噴霧量や噴霧時間といった牛舎フォグシステムの適切な稼働方法を検討するものです。

このほか、畜産由来の温室効果ガス(GHG)削減に向けた取り組みも大学や企業と共同で3年ほど前から進めており、成果がまとまり次第、公表する予定です。