この記事は2025年1月31日に掲載された情報となります。
カテゴリー:実証試験
実施年度:2021~2023年度
協力:JAひがし宗谷
実施:稚内支所営農支援室
協力関係機関:宗谷農業改良普及センター本所、株式会社北海道クボタ、株式会社北海コーキ

株式会社北海道クボタ
施設酪農総括部 酪農推進部
部長 及川 貴浩さん
スラリーを溝の表層ではなく、土中に流し込むのが特徴
カットインジェクター®の開発に携わった北海道クボタの及川貴浩さんは、機械の性能をこう話します。
「今回、当社と北海コーキさんで開発したカットインジェクター®は、牧草地の表面に切り込みを入れ、ホースから糞尿スラリーを土中に注入する機械です(写真1)。切り込みの溝の表層に流すタイプは輸入品にもありますが、土中に流し込むものは他にありません」

海外にも例がない独創的なカットインジェクター®ですが、そもそもの原型は20年近く前に(公財)北海道農業公社が製造した機械だそうです。
酪農地帯でスラリーの空中散布による悪臭が問題となり、土中に施工すれば臭気が軽減するのではないかと考案されました。実際に防臭効果は高かったものの、使い勝手が悪く、普及しませんでした。
「ホクレン稚内支所でその話を聞いたのが4年前です。札幌の八紘学園で保管されていた現物を見せてもらうと、タンカーの牽引管が直接トラクターのドローバー※に取り付けてあり、カットインジェクター®にぶつかるため、旋回ができない。これは改良に時間がかかると感じました」
当初はカットインジェクター®に牽引のヒンジをつけようとしましたが、作業位置で高さが上下するので難しい。
トラクターのドローバーに装着する「延長牽引フレーム」を新たに作り、旋回できるようにしました。
スラリータンカーやバキュームカーはメーカーによって仕様が違うので、フレームは受注生産になりますが、旋回はもちろん、作業機をつけたままの移動も容易になりました。


悪臭対策に加え草地のリフレッシュ効果も
スラリーの空中散布は、追い風の日や雨の降る前を選ぶなど配慮が求められます。
しかし2022年から3年間、猿払村で行ったカットインジェクター®の試験では、施工中も施工後もアンモニア臭はほとんど感じないと高評価を得ました。またサイレージ調整でも酪酸が未検出で発酵品質が良好という結果が出ました。
「草地の植生について極端な生育の違いはありませんでしたが、遅効的な作用は期待できるはず」と及川さん。牧草地を長く維持するために活用できると強調します。
「試験では空中散布に比べ作業効率が悪いという声もありましたが、カットインジェクター®はルートマットを切って空気を入れるエアレーションができる。草地を復活させる手段の一つになると思います」
臭いや粗飼料品質への影響を考えず、春先からスラリーを施用でき、草地のリフレッシュにも有効。
住宅地の近くはカットインジェクター®で土中に注入、離れた場所は空中散布と、場所によって使い分けもできそうなので、農協やコントラクター、TMRセンターなどでの導入も可能です。
現在は牧草地だけではなく畑作地でも使えるよう、メタン発酵消化液の活用に向けた取り組みも始まっているほか、スラリーの土中施用における窒素循環の調査もスタート。
環境負荷軽減の側面からも注目を集めています。また、2026年までの予定で(地独)北海道立総合研究機構酪農試験場でも試験を行っています。加えて、実演農場も募集しています。(時期やタンカーの機種によってはお受けできない場合があります。)詳しくはホクレン支所農機燃料自動車課へお問い合わせください。