スラリー土中施用による良質粗飼料生産に向けた取り組み(上)

キーワード:カットインジェクターサイレージスラリー
写真1カットインジェクターとスラリータンカーを接続したトラクター
写真1.カットインジェクター®とスラリータンカーを接続したトラクター
この記事は2025年1月31日に掲載された情報となります。

 

カテゴリー:実証試験
実施年度:2021~2023年度
協力:JAひがし宗谷
実施:稚内支所営農支援室
協力関係機関:宗谷農業改良普及センター本所、株式会社北海道クボタ、株式会社北海コーキ

 

POINT
●スラリーを土中施用することで牧草への付着を軽減します。
●空中散布に比べると、体感で臭気が少なくなります。

 

サイレージの不良発酵と臭いを防ぐ「カットインジェクター®」

乳牛が排出する糞尿はスラリーとして空中散布することにより牧草地に還元することが㆒般的です。

しかし、空中散布では牧草に糞尿が付着しやすく、サイレージに調製する過程で不良発酵する可能性が高まってしまいます。

また、臭気も発生するため、特に市街地に近い草地では課題となっています。

農研機構と株式会社北海コーキが開発した「カットインジェクター®」は圃場に切り込みを入れ、そこにスラリーを流し込むという仕組みのため、牧草にスラリーが付着しづらく、臭気も発生しにくくなります(写真1)。

そこで、稚内支所では、そうした課題解決に向け「カットインジェクター®」を普及させるための実証を行いました。

 

初年度の取り組みでは臭気削減に効果を実感

猿払村にあるTMRセンターの協力を得て、構成員の草地で施工を実施。

初年度の2021年は、秋に施工したので、収量などの効果測定は行いませんでしたが、臭気については明らかな差があり、カットインジェクター®施工区ではほとんど臭気は感じられませんでした。

なお、施工時の機械側の課題として接続性や旋回性が挙げられたため、普及に向け次年度以降改良することになりました(写真2)。

 

写真2カットインジェクター本体改良実施
写真2. カットインジェクター®本体改良実施(試作機のため、実際の製品とは異なります)

 

2年目、3年目と課題を解消しサイレージの発酵品質が向上

2年目の2022年は、2021年と異なる草地に施工。植生、収量、粗飼料成分等に差は見られませんでしたが、接続部分を改良したことで、旋回性能の向上が見られるものの新たな改良点も見つかりました。具体的には次の通りです。

❶ホースを透明に変更

❷分配ホースのたるみを少なくする

❸後部に反射板などを設置

3年目の2023年は2022年と同㆒の草地で施工を行いました。春2回、秋2回の合計4回施工しても、この草地ではルートマットが剝がれないことを確認(写真3・4)。またパウチサイレージによる発酵品質の比較では、カットインジェクター®施工区の方が、発酵品質が良好な傾向が見られました(表1)。

 

写真3春土中施用区
写真3. 春土中施用区
(春施工後、約 3 週間経過)

 

写真4秋土中施用区
写真4. 秋土中施用区
(秋施工後の圃場)

 

表1一番牧草のパウチサイレージ調査分析結果
表1.一番牧草のパウチサイレージ調査分析結果(2023年 ホクレン畜産技術課)
※1.春:土中施用、秋:空中散布 ※2.春・秋:土中施用

 

2025年度から販売開始

猿払村の試験ではSTAR農機のスラリータンカーを用いた試験でしたが、他メーカーのスラリータンカーでも確認できるように2023年からはデモ機を2台増やし、道東方面で実証・実演を行っています。

また2025年度からの販売開始に向けて、2024年度中に受注を開始する予定です。

 

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