自給飼料の給与編

キーワード:サイレージ牛舎自給飼料
この記事は2024年11月29日に掲載された情報となります。

自給飼料は収穫・調製がゴールではありません。自給飼料をしっかり牛に食べさせて、効率的に生乳生産につなげるためのポイントをご紹介します。

自給飼料の給与のポイント

  • 大切なのは、自給飼料を最大限食い込める環境づくり(カウコンフォート)
    牛が自由に「飲んで」「食って」「ゴロリ」できる環境を作る!

POINT 1  自給飼料を多く食べさせるための基本

①エサ寄せ

●牛の採食行動に合わせてエサ寄せをすることで乾物摂取量の向上につながります。特に搾乳直後や給餌後1〜2時間は牛の採食行動が最も活発になるため、この時間帯に集中してエサ寄せを行い、確実に食べられる状態を作ることがとても重要です。また、乳牛は採食後2〜3時間経つと再び採食意欲が高まるため、エサ寄せの頻度は2〜3時間に1回が効果的です。

●また、多くの農場で導入が進んでいるエサ寄せロボットの活用も自給飼料の採食量を高めるためには高い効果を得られます。

 

写真1エサに届かず食べられない
写真1.エサに届かず食べられない

 

写真2エサ寄せして食べられる状態
写真2.エサ寄せして食べられる状態

 

②給与回数

●1日1回給餌より、複数回に分けて給与することで採食量は高まります。TMRの場合は1日1回<2〜3回で採食量が高まります。分離給与の場合は配合飼料を1日4〜5回に分けることでルーメンpHの変動が少なくなり、自給飼料の採食量も安定します。

 

③残餌の量

●フリーストール牛舎では、給与したTMRの3〜5%が残餌として発生するように給与量の調整を行います。残餌が出ない状態では牛の採食量を制限している可能性が高く、飼料効率や栄養充足が低下してしまいます。

 

④粗飼料の切断長

●採食量が高まり、かつ反芻刺激も確保される粗飼料の切断長は20mm前後と言われています。

●グラスサイレージ体系では、ハーベスターの設定※を10〜15mmに調整することで切断長をコントロールします。また、収穫時期が遅くなると牧草の繊維が硬くなるため、切断長をやや短くすることで採食量の低下防止につながります。

※切断長はハーベスターの設定より実際は長めになることが多いので、パーティクルセパレーターなどで実際に確認しながら調整することが大切です。

●ロール体系では収穫時にカッティングを入れることで牧草をある程度の長さまで細断することができます。さらに、給与前にロールカッターで細断することで採食量の向上につながります。

 

Pickup
ポイントは残餌が残る十分な量のTMRを給与し、
エサ寄せをしっかりとする!こと

同じTMRを利用する農場でも乳量が違う?その原因は?

調査対象 (A.Bach et al., J.Dairy Sci 2008)

●同じTMRセンターを利用しているスペインの47農場(搾乳牛3,129頭)。

●1日あたりの牛群平均乳量の差は約13kg(20.6〜33.8kg/日)

❶エサ寄せの有無による違い

❶エサ寄せの有無による違い

❷残餌の有無による違い

❷残餌の有無による違い

 

POINT 2  水の大切さ

①十分な飲水量を確保する

●飲水量と乾物摂取量には密接な関係があり、飲水量が制限されると自給飼料の採食量が低下し、乳量も低下します。

● 一般的に搾乳牛は水を1日100〜150ℓ、乾乳牛は30〜50ℓ飲むと言われています。また、飼料を1kg食べるために、4〜6ℓの飲水が必要とされています。

●つなぎ牛舎では約14回/日、フリーストール牛舎では約7回/日飲水し、特に搾乳直後の1時間で1日の30〜50%の量を飲むと言われています。

●搾乳後は牛が水槽に集中するため、この時間帯でも飲水を制限しない水槽の数(1群に最低2個以上、20〜25頭に1個)、大きさ(1頭あたり幅10cm)、吐水量(20L/分以上)を確保する必要があります。

(例)1群80頭の場合
80頭×0.1m=8m ⇒ 長さ2m×4台(8m)〜長さ3m×3台(9m)

 

写真3水槽に密集して競合が発生
写真3.水槽に密集して競合が発生し、飲水が制限される。(酪農の生産性向上に向けたヒント集 ホクレン2017より)

 

②水槽を清潔に維持する

●牛の嗅覚は人の3倍と言われており、飼料の食べカスやヌメリで水槽から悪臭がすると飲水量が低下します。

 

牛は水槽の悪臭に敏感

 

● そのため、水槽を小まめに掃除することがとても大切です。基本は毎日、少なくとも2日に1回は水槽掃除を行いましょう。

写真4汚れた水槽
写真4.汚れた水槽

 

写真5掃除後すぐに牛が水を飲みに来る
写真5.掃除後すぐに牛が水を飲みに来る

 

POINT 3  ストレスフリーな環境

①牛床管理

●横臥(おうが)時間(=ベッドで寝ている時間)を確保して、反芻を促すことで飼料の消化率が高まります。飼料が消化されれば、牛は再び空腹感を感じて採食行動を起こし、これが繰り返されることで自給飼料の採食量も高まります。

● 「十分な量の敷料(厚さ10cm以上)」、「デコボコがなく乾燥した牛床」、「新鮮な空気(換気)」など、カウコンフォートを心がけて1日12時間以上の横臥時間を確保することを目指します。

 

②適正な飼養密度

●飼養密度が高まると牛同士の闘争が増え、安心して「飲む」、「食べる」、「横臥する」が出来なくなります。過密状態では牛群全体の採食量が低下しますが、特に初産牛などの弱い牛への悪影響が大きくなり、産乳量の低下のみならず、疾病リスクも高まります。

 

写真6十分な量の麦稈でゆったり寝る乾乳牛
写真6.十分な量の麦稈でゆったり寝る乾乳牛

 

写真7乾乳舎のストールを撤去する改善策
写真7.乾乳舎のストールを撤去する改善策でストールなしでゆったり寝る乾乳牛
(酪農の生産性向上に向けたヒント集 ホクレン2017より)