この記事は2024年12月9日に掲載された情報となります。
ホクレン 酪農畜産事業本部
前回はホクレンのイネ科牧草チモシー単播とマメ科牧草アカクローバ混播の比較給与試験を例に「良質な牧草の給与により温室効果ガスを約9%削減できる」ことを解説しました。今回は、飼料用とうもろこし栽培可能地域におけるコーンサイレージ多給による温室効果ガス削減について解説します。
コーンサイレージ多給のシミュレーション
搾乳牛への飼料用とうもろこし(以下、コーンサイレージ)の給与量10kgと30㎏の設計を組み、比較しました。
シミュレーションの結果、コーンサイレージはとうもろこしの子実が含まれているため30㎏給与した方が濃厚飼料(購入飼料)を減らすことができました(表1)。
経済性を比較するとコーンサイレージを30㎏給与した方が粗飼料給与量が多くなります。
粗飼料の生産費用(種子、肥料、労働費、農機具費等)は増加しましたが、それ以上に濃厚飼料費が減るので経済メリットが出る結果となりました(表2)。
温室効果ガス排出量
飼料設計を基に生乳1㎏あたりのCO₂発生量を、前回の10月号と同じ排出源(堆肥化、牛のゲップ、購入飼料調達)で試算しました。
コーンサイレージ30㎏給与した方が濃厚飼料を減らすことができたため、購入飼料調達にかかるCO₂が大きく減少しました。合計でCO₂が7%減少する結果となりました(図1)。
飼料用とうもろこしは牧草と並ぶ北海道酪農の主要な自給飼料であり、TDN(可消化養分総量)が高く収量も期待できます。
今回の試算では、コーンサイレージの多給によって濃厚飼料を削減できることから、経済性向上と環境負荷軽減が可能となりました。
今回解説したコーンサイレージ多給だけでなく、適期収穫による栄養価の確保、十分な踏圧など発酵品質向上による自給飼料の給与割合向上のほか、前回ご紹介したマメ科牧草混播による栄養価向上によっても経済性と環境負荷軽減の両立が可能です。
また、自給飼料生産は土壌炭素貯留によるCO₂吸収源にもなるため環境負荷軽減が可能です。
世の中では酪農畜産の環境負荷への対応が注目を集めています。日本の温室効果ガス総排出量は約11億5,000万tであり、そのうち酪農畜産分野に限れば約1.2%(1,400万t)と決して大きい数字ではありませんが、持続的な酪農畜産経営に向け温室効果ガス削減に取り組んでいく必要があります。
そのためにも、北海道酪農の特徴である自給飼料基盤の活用が重要であると考えています。
8月号から3回の短期連載でしたが酪農畜産のSDGsについてお伝えしてきました。これからも酪農畜産の環境負荷軽減に向けた有用な情報発信に取り組んでまいります。