暑熱対策で夏場のロス低減を(Vol.2 暑熱対策のポイント)

キーワード:暑熱対策酪農
この記事は2024年6月20日に掲載された情報となります。

酪農畜産事業本部 畜産生産部 生産技術課

 

1. POINT Ⅰ「湿度」を避ける

(1) 「換気」で湿度をこもらせない

暑熱期は牛舎内の空気を1時間あたり40回入れ替えられる換気量が必要とされています。牛舎内で二酸化炭素濃度がどこでも500ppm以下であれば、十分な換気量を確保できていると言えます。換気に問題がある場合は改修が効果的です。

(改修方法の一例)
・送風機の増設によるリレー換気の強化
・ 屋根の開口部に強制換気のためにファンを設置する
・トンネル換気への改修  など

牛舎の二酸化炭素濃度と換気回数

(2) 野外を上手く活用する
施設の構造上改修が難しい場合は、パドックや放牧地を活用します。木陰などの日陰が無い場合は、遮光ネットなどで日陰を作ります。また、牧草地やパドックの泥濘化対策、水槽の設置が大切です。

暑熱対策のポイント

  (出典:公共牧場機能強化マニュアル(一社)日本草地畜産種子協会、2011)

2. POINT Ⅱ「牛を冷やし」て体温を下げる

(1) 送風による冷却
牛体に風速1m/秒で風を当てると6℃、風速3m/秒で10℃の体感温度が下がると言われており、乳牛に風を当てることは暑熱対策として極めて有効な手段です。牛舎周囲の風向に逆らわないようにして牛舎内に効果的に風を流します。また、送風機は十分な数を確保し、通路上は機械作業を妨げない事を前提に、できるだけ低い位置に送風機を設置します。ベッドエリアは牛が寝る高さで風速2m/s以上を確保できる高さと設置角度とします。なお、風速を測るための風速計が無い場合は、牛床の敷料が風で揺れる風速≒2m/sと推定することができます。

 

暑熱対策のポイント

(2) 散水による冷却(表2)
水による冷却方法には①ミスト(細霧)と②ソーカー(散水)があります。
ミストは細かな霧状の水を空間に散布し、大気中でミストを蒸発させ、気化熱の冷却効果で周囲の温度を下げますが、湿度が高いと効果が低下するので、湿度70%を目安とします。
ソーカーは牛を濡らし、体に風を当てる事で気化熱により体温を下げる方法です。つなぎ飼い牛舎では牛が起立した際に首元から背中に水がかかる位置に設置します。フリーストール牛舎では飼槽の上部やホールディングエリアにソーカーを設置します。ソーカーの設置に併せて風速2m以上の風を牛体に当てるようにします。

暑熱対策のポイント

(3) 飲水による冷却
搾乳牛は1日100~150Lの水を飲みます。十分な飲水を確保するため、フリーストール牛舎では1群当たり、最低2個以上の水槽を配置します。また、必要な水槽の長さは、群の飼養頭数×10㎝以上が目安です。例えば、群の飼養頭数が80頭の場合、80頭×0.1m=8m、長さ4m水槽で2台必要となります。そして、水槽掃除は欠かさず続けて下さい。

暑熱対策のポイント

(4) エアコンの利用
2023年現在、道内約20農場(全てつなぎ飼い牛舎)で導入されています。取り込んだ空気の温度を5℃、湿度を10%下げることができます。湿度が下がることで牛床も乾きやすくなり、乳房炎の予防にもつながります。暑熱対策のポイント

(出典:牛舎エアコンの導入事例(鳥山電機工事株式会社HPより))

3. POINT Ⅲ「牛舎の気温」を上げない

(1) 断熱材の利用
断熱材を施工することで屋根や壁からの輻射熱を低減できます。本州では一般的で、断熱材入りの屋根への張り替え、ウレタン吹付などの施工方法があります。

暑熱対策のポイント

(2) 屋根への散水
屋根への散水は屋根裏に断熱材が無い牛舎で効果が高いとされています。牛舎内の湿度が高まらないこともメリットです。

暑熱対策のポイント

(出典:牛舎を冷やす工夫事例(釧路農業改良普及センターHPより))

(3) 打ち水
外気の取り込み口に打ち水をすることで涼しい風を牛舎内に取り込めることが期待できます。

(4) 遮光ネットの利用
暑熱環境では「直射日光が当たるベッドには寝ない」、「牛舎内で暗い場所に集まる」などの行動を取ります。牛舎内での牛の偏りが過密状態を作り出し、暑熱ストレスを助長します(写真12)。また、西日が飼槽に当たるとTMRの腐敗が進み、乾物摂取量の低下につながるため、遮光ネットで牛舎に直射日光が入らないように対策します。

暑熱対策のポイント

(出典:快適な牛舎を作るために(全農セミナー、2019より))

4. 身近ですぐにできる暑熱対策

牛の快適性を高める飼養管理が暑熱対策のベースとなります。

(1) 水槽や扇風機を掃除する
送風機はホコリやクモの巣が付着していると風量が低下します。しっかり風を送るためにも、毎年、夏までに送風機の掃除を実施しましょう。

(2) 良質な粗飼料を使用する
乾物摂取量を維持するためには、良質な粗飼料を給与することが最も効果的です。手持ちの粗飼料在庫のうち、発酵品質が良く繊維消化率の高い粗飼料を夏場に使えるように粗飼料の給与計画を立てることが重要です。

(3) 敷料をしっかり入れる・牛床乾燥剤を使う
敷料を十分に入れることで牛床と牛体の間に空間ができ、通気効果や乳房炎予防の効果が期待できます。また、牛床を乾燥させるために牛床乾燥材を使うことも選択肢の一つです。

(4) 飼槽をキレイにする
飼槽に残餌が残っていると、新たに配った飼料の腐敗や異臭の原因になり、採食量低下します。また、細菌が繁殖しやすい状況となり、サルモネラ症等の発症リスクも高まりまるため、毎日の飼槽掃除を徹底しましょう。汚れが目立つ場合は高圧洗浄機で洗浄するも有効です。

暑熱対策のポイント