暑熱対策で夏場のロス低減を(Vol.1暑熱ストレスについて)

キーワード:暑熱対策酪農
この記事は2024年6月20日に掲載された情報となります。

 

酪農畜産事業本部  畜産生産部  生産技術課

1. 北海道の牛舎は暑さに弱い
「夏場の暑さをどうしのぐか?」を優先して建てられた本州の牛舎はほとんど壁が無く、換気を非常に効率的かつ容易に行える牛舎が多いです。(写真1)。一方、北海道の牛舎は「冬期の雪と低温からどう牛を守るか?」を優先して建設し、窓などの開口部が小さくなる傾向があります。そのため、十分な換気量を確保できない牛舎も多くあります(写真2)。そのような牛舎では、湿気が籠りやすく、THI(温湿度指数)が上昇して暑熱ストレスの影響が大きくなります。

牛舎の一例、ヒートストレスメーター

 

2. 温湿度指数(THI)と乳量
温湿度指数(THI)は市販のTHIメーターで簡単に測定でき、暑熱ストレスレベルを把握するのに非常に便利です。気温が21℃を超えると、湿度に関わらずTHIは65以上となり、暑熱ストレスが発生します。

 

3. 暑熱時の牛の状態
暑熱環境下では乳牛の健康維持に重要な「飲水(飲んで)」、「採食(食って)」、「快適な寝起き(ゴロリ)」の3要素を担保することが難しくなり、様々なトラブルにつながってしまいます。

(1) 食えない
・ 「栄養充足率の低下」、「ルーメンアシドーシスリスクの上昇」
・乾物摂取量(DMI)低下の度合いが激しい、期間が長いほど秋以降のトラブルが深刻化

(2) 寝られない
・気温が高いと牛は寝なくなる(体温がこもる)
・起立時間が伸びると蹄への負担が大きくなり、蹄底潰瘍のリスクが高まる

(3) 飲めない
・暑熱によって水の要求量は高まる
・ 水分不足はDMI低下に直結するだけでなく、様々な代謝障害にもつながる

暑熱ストレス

 

 

4. 搾乳牛への暑熱の影響
暑熱ストレスが強くなると、個体乳量は最大4kg/日以上低下し(表1)、特に高泌乳牛においてその影響は大きくなります(グラフ1)。

THI・暑熱ストレスレベルと乳量   (出典:表1. Heat stress in dairy cattle(University of Minnesota Extension,2020より))

   (出典:グラフ1. Animal Frontiers, Volume 9, Issue 1(Robert J Collier et al.,2019より))

 

5. 乾乳牛への暑熱の影響
暑熱ストレスを受けた乾乳牛がコンディションを崩した状態で秋に分娩を迎えると、「分娩後の生産性(乳量、繁殖成績など)」(グラフ2)、「初乳の免疫グロブリン濃度」「出生時の子牛の体重低下」、「子牛の生存率や将来の生産性」などの低下につながります。
また、2024年の夏も分娩頭数が多い見込み(グラフ3)であり、暑熱時期に乾乳牛舎が過密になることが想定されます。暑熱ストレスに過密ストレスが加わると、乾乳牛への負担は深刻になるため、両方の対策が大切です。

(出典.移行期管理を成功させるポイント(全農セミナー、2020)より)

暑熱ストレス

                                           (出典:北海道酪農検定検査協会より)