この記事は2024年2月19日に掲載された情報となります。
1960年代以降、牛の人工授精や凍結精液の技術が普及すると、種雄牛の重要性が増してきました。そこで、娘牛の成績から種雄牛の能力を調べる後代検定が発達して、優秀な種雄牛を確実に選べるようになると、遺伝的改良量が大幅に増加しました。そして今、遺伝的改良をより加速させると期待されているのがSNP(スニップ)検査によるゲノミック評価です。現場ニーズに応えた家畜改良の推進を図る一般社団法人ジェネティクス北海道の花牟禮次長に最新情報をお聞きしました。
一般社団法人ジェネティクス北海道
改良部 次長
花牟禮(はなむれ)武史さん
雌牛の将来的な能力を早期に予測「ゲノミック評価」とは?
乳牛の生産能力は飼養環境の影響を受けますが、一方で生まれ持った資質(遺伝)にも大きく左右されます。その遺伝的能力を調べる新しい技術として注目を集めているのが「ゲノミック評価」です。
ゲノミック評価とはゲノム(遺伝情報)を解析し、血統情報などと組み合わせ、牛1頭1頭の将来的な能力を評価する技術です(図1)。
多くの生物では、細胞核の中のDNA(染色体)は、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基が鎖状に連なった二重らせん構造になっています。
約30億対あるといわれる塩基配列のほとんどは、どの牛も同じですが、わずか0.1%程度異なる部分があり、その個体差をSNP(スニップ)と呼びます。そのSNPを解析し(図2)、家畜改良センターの血統登録、体型調査、後代検定などのデータと組み合わせて遺伝的能力を評価するのが「ゲノミック評価」です。
生まれてすぐにSNP検査すれば、未経産のうちに将来的な能力を推定できるため、早めに後継牛の選抜ができます。世代間隔が短縮し、好ましい遺伝子を残せるので牛群改良がよりスピードアップすると期待されています。
-
そもそも、ゲノムとは、遺伝子をはじめとする全ての遺伝情報のことです。 ゲノムの中でも親の生物学的な特長を子どもに伝えるDNAの特定の部分を遺伝子といいます。
-
点線のようにDNAの塩基配列の中にわずかにある個体差のことがSNP。SNPはおよそ30億対ある塩基配列の0.1%程度と推定されます。現在、牛ではDNAサンプルと検査用キット、解析装置などから数千~5万個程度のSNPを検査できます。