地域の取り組み 農協出資型法人「(株)ユニバース」

JA陸別町の挑戦

キーワード:JA陸別町ユニバース省力化
JA陸別町の挑戦
デンマーク製の自動給餌システム「ワンツーフィー ド」。給餌で1 日7 回、エサ寄せで15 回、牛舎内を 往復し、牛群に合わせて設計されたエサを牧区ごとに自動的に与えます。
この記事は2017年2月1日に掲載された情報となります。

 

JA 陸別町とホクレンが出資し操業を開始した株式会社ユニバース。農協出資型法人として注目されている同社の設立から現在までの足跡をリポートします。

 

フルオートメーションの近未来型牛舎

十勝の北東部に位置する陸別町で、昨年4月から操業を始めた株式会社ユニバース。フリーストール牛舎は全長182mと、日本一の長さを誇ります。

牛舎の各所に設置された6台の搾乳ロボットは24時間休むことなく稼働。中央の通路には2台の自動給餌機が音もなく行き来しています。北海道で初めて導入された自動換気システムは、牛舎内の湿度と温度を調整して牛が過ごしやすい環境をキープします。

巨大な牛舎だけに、従業員は全員インカムを装着。場長からの指示はデジタル無線で耳元へ飛んでくる仕組み。酪農業のイメージが一新されるような近未来的な空間です。

 

1戸の離農者も出したくない

この先進的な牛舎を持つユニバースは、JA陸別町が主導して立ち上げた農協出資型法人。一体どのような経緯で誕生したのでしょうか。

そもそも陸別町は農協組合員のほとんどが酪農業という酪農のまち。それでも経営主の高齢化や後継者不足による離農が相次ぎ、平成6年に95戸あった搾乳農家が平成25年度には59戸まで減少しました。さらにこの先、経営主が65歳で離農すると仮定した場合、10年後には46戸にまで減るという試算が出されたのです。

この結果を受けて、JA陸別町は抜本的な対策が必要だと判断。「1戸の離農者も出さない」を目標に掲げ、陸別の酪農を守る方策を探り始めます。中心となったのは、平成21年に連合会、関係機関などで結成した『陸別町の10年を考える会』。経営主には独身の人もいるし、牛舎が老朽化している人もいる。このままでは離農に歯止めがかからない。話し合ううちに浮上したのが農協出資型法人の設立でした。

 

 

搾乳ロボットの監視モニター
搾乳ロボットの監視モニター。1頭ずつの乳量や乳質などをチェックできます。

 

牛群管理システム
場長がハンガーとクリップで手作りした牛群管理システム。何番の牛が牛舎のどこにいるのか、一目で把握できます。

 

 

ユニバースの設立は、農協職員が一丸となって取り組んだ一大プロジェクト

西岡組合長

JA陸別町
西岡 悦夫 代表理事組合長

「組合員が構成員として実労働を担っている。
家族経営の延長では失敗してしまうから、構成員には意識改革が求められました」

 

黒沼参事

JA陸別町
黒沼 尚幸 参事

「ユニバースは『キレイは儲かる』が合言葉。
衛生管理が良ければ疾病も少なく、乳質が良ければ単価も上がるからです」

 

組合員3戸が法人への参加を希望

JA陸別町が農協出資型法人の設立を決め、町内の懇談会や全体集会で法人への参加を呼びかけたところ、当初21人の組合員が興味を示しました。しかし、自らの牧場は閉鎖すること、収入は給料制になることなどに難色を示す人も多く、最終的に法人への参加を決めたのは3戸でした。

3戸には法人参画の条件として1戸300万円の出資を求めました。西岡悦夫組合長は「300万円を用意するには家族の了解も必要になる。それなりの覚悟ができるし、そう簡単には辞められない」と考えたそうです。

 

家族経営から法人経営への意識改革

最も苦労したのは施設を建設するための5ヘクタールの土地探しです。適地を見つけても草地更新の補助事業に入っていて転用ができないこともありました。補助事業と無関係の土地を持つ組合員に「地域の将来のために売ってくれ」と頼み込んで譲ってもらったのが現在地。西岡組合長は「組合員の協力がなければ計画自体が頓挫していたかもしれない」と振り返ります。

一方で、反対意見も少なくありませんでした。既に法人化し大規模経営をしている組合員数名が「絶対に失敗するから止めたほうがいい」と忠告に来ました。「これまで家族経営だった3人が寄り集まって法人を経営してもうまくいくはずがない」と心配したのです。西岡組合長は「先に法人化を成功させたあなたたちが経験を踏まえて指導してくれれば失敗しない」と説得。構成員3人にはそれぞれ社長、副社長、専務の役職を割り当て、法人経営のノウハウについて時間をかけて伝授しました。

 

自動換気システム1

自動換気システム2
パナソニックが開発した自動換気システム。気象庁で使っているのと同様の高精度なセンサーで温度と湿度を感知して、牛舎内の空気を入れ換えます。
夏は天井に吊り下げられたカーテンに風を当て、牛の頭に風速2 mの風を落とすことで体感温度を下げ、暑熱ストレスを軽減します。

 

農協全体で意思統一を図る

農協の内部でも意思統一に努めました。農業生産法人の設立についてフランクに話し合う飲み会を各部署ごとに開催し、職員一人ひとりからどのような牧場を目指すべきかレポートを提出させました。「準職員を含めて50数人の小さな組織ですが、農協が中心になってやるんだぞ、と全員に浸透させるねらいがあった」と西岡組合長は打ち明けます。

こうして農協内の意見を集約した上で、担当部署と普及センター、ホクレン、中央会などがプロジェクトチームをつくってプランを立案。300頭前後の牧場を想定していたら、上がってきたのは500頭規模の計画書でした。黒沼尚幸参事は言います。

「私も組合長も計画にはノータッチです。プロジェクトチームで考えたのは、エサも搾乳も人の手をかけないフルオートメーションの牧場で、減価償却を考えたら500頭が必要だと逆算したようです」

総投資額は約19億円。畜産クラスターなど約5億円の補助金を活用しても13億円ほどを自己負担する一大事業です。西岡組合長は金融機関を説得する一方、ホクレンにも直接出向き、出資を要請しました。出資割合は組合員が42.95%、農協が42.63%、ホクレンが14.42%。農協は代表権を持たない大株主の位置づけとなりました。

 

搾乳ロボット「アストロノート」1

搾乳ロボット「アストロノート」2
オランダ・レリー社の搾乳ロボット「アストロノート」を6 台導入。配合飼料でロボット内に牛を呼び込み、乳頭をレーザーで検知して自動的に搾乳します。
搾乳回数は1 日平均2.8 回にのぼり、乳量も向上しました。

 

株式会社ユニバース 現場の声

 

美濃島さん

取締役社長
美濃島 弘典さん

 

陸別町の酪農の活性化に貢献したい

生まれ育った町の中核となる法人で働くことで、陸別町と酪農界に貢献したいと思って参加を希望しました。TMRセンターでともに頑張ってきた仲間が構成員に加わることも後押しになりました。

とはいえ法人組織となると、家族なら気兼ねなく言えることもなかなか口に出せないなど、これまでとは勝手が違います。特に技術指導など教育の仕方には気を使いますね。今後は新人スタッフの育成にももっと力を入れていきたいと思っています。

また、求職者向けの情報発信も兼ねてホームページを立ち上げ準備中です。農協のバックアップは大変心強いですが、一方で、この肩にかかっているのは自分の家族だけではないんだ、という責任も強く感じています。この重責をいい意味での緊張感に変えてこれからも頑張りたいと思っています。ユニバースの経営を安定させ、陸別町の活性化と酪農業の振興に役に立ちたいと願っています。

 

ユニバースが起爆剤となり、陸別町の酪農が活性化

機械化と分業制で省力化を実現

ユニバースの稼働は昨年4月。前年から育成牛150頭程度を購入し、農協の育成センターで種付けをして、ちょうどいいタイミングで出産できるよう準備してきました。

社員は出資者である構成員3名のほか、農協から出向している工藤圭太場長と雇用者5名。いずれも20〜30代の若手で5名のうち4名が町外出身者です。今年はさらに地元出身の女性1名がUターンで就職、春からはベトナム人の技能実習生2名も加わる予定です。

「少ない人数でまかなえるのは、エサ部門や育成部門を分業しているから。仔牛が生まれて4日目からは農協の育成センターで世話をして、受胎させてから牧場に戻すシステムですし、エサも1㎞ほど離れたTMRセンターから供給しています」と黒沼参事。農協がすべてに関与してバックアップしているからこそ成り立つ効率的なシステムといえるでしょう。

JA陸別町
天気が良いと阿寒の山々を見渡すことができる高台に位置するユニバース。建物の外壁はベンガラ色で統一しています。
町外出身の従業員が暮らせるよう敷地内に単身者用アパート6 棟を建設予定です。

 

株式会社ユニバース 現場の声

 

舟田さん

従業員
舟田 大輔さん

 

牛の扱いにも慣れてきました

僕は浦幌町の出身で、以前は接客業で働いていたんですが、友人の紹介でユニバースの立ち上げから入社しました。父が昔、酪農ヘルパーをしていたことがあるので、仕事の内容は理解しているつもりでしたが、給餌や搾乳作業はすっかり機械化されていて驚きました。

僕らの仕事はロボットのメンテナンスや、エサの片づけ、牛舎の衛生管理などが中心ですが、なかには搾乳ロボットに入りたがらない牛もいるのでロープで連れて行ったり、アブレストパーラーで搾乳したりもします。

牛は体の大きな動物なので、最初のころはおっかなびっくりだったのですが、最近は扱いもだいぶ慣れて、かわいい感じるようになりました。1 頭1 頭個性があって、愛嬌のある仕草をしたりするんですよね。ここで先輩方から教えてもらいながら酪農の技術を身に付けて、牛に関わる仕事を続けていけたらいいなと思っています。

 

将来は800頭までの規模拡大が可能

昨年4月から稼働して年内に500頭まで増やそうと計画しています。すでに成牛総頭数は475頭(昨年11月末現在)、うち搾乳牛は447頭で順調に増頭しており、一日約14tの生乳を出荷しています。

現在は農協の育成センターで158頭の育成牛を預かっていますが、今後はユニバース敷地内に乾乳舎を建てる計画。将来的にはTMRセンターの飼料供給能力ぎりぎりの800頭まで増頭を見込んでいます。

こうしたユニバースの積極的な取り組みに刺激されてか、組合員から「新たに規模拡大したい」との相談もあったとのこと。西岡組合長も「ユニバースがいい起爆剤となっている」と顔をほころばせます。

他にも法人化を目指す生産者もいて、その準備として構成員となる人たちが交代でユニバースへ研修に入ることも決まっています。「融資の交渉や商談などにも立ち会って、法人経営のノウハウを学んでもらいたい」と西岡組合長。ユニバースの生産が軌道に乗ってきたいま、次の一手として、乳製品の加工・販売やリース牧場の運営なども構想中です。

 

ユニバースロゴマーク
ユニバースのロゴマーク。下から上へ黒字でまっすぐ進んでいく矢がユニバースで、緑色の2 本の矢は会社を支えるJAとホクレンを意味するそう。
ちなみにユニバースは「宇宙」の意。星のまちとして知られる陸別らしいネーミングです。

 

株式会社ユニバース 現場の声

 

工藤さん

場長
工藤 圭太さん

 

周囲と連携し、大きくしていきたい

もともと農協職員ですが、今は出向で場長を任されています。牛舎ではロボットに2人、アブレストパーラーに2人、哺育に1人と常時5人が作業を分担し、僕と構成員3名がフリーの立場で全体をカバーします。通常なら470頭の牛舎を9人の人員でまわすのは不可能ですが、ほぼ残業なしで操業できているのはロボットのおかげです。

搾乳や給餌を機械に任せられるので、僕らは牛の体調管理や衛生管理に時間をかけられます。ロボットは24 時間稼働しているので、搾乳回数が増えて乳量がアップするという利点もあります。また、牛の首に付けたセンサーで発情の牛も分かるため、繁殖成績の向上にもつながります。

TMRセンターや哺育センターなど外部との連携も省力化には欠かせません。今後も農協はじめ関係者の皆さんと相談しながら規模の拡大を目指していきたいと思っています。