安全・安心な農産物を届けたいから

残留農薬検査で分かること

キーワード:農薬

ホクレンの食品検査分析センターでは、JAや生産者からの依頼による残留農薬検査を行っています。農産物の安全・安心を担保する取り組みについて聞きました。

この記事は2020年6月1日に掲載された情報となります。

ホクレン 農業総合研究所 食品検査分析センター 検査分析課 課長補佐 石渡 智

ホクレン 農業総合研究所
食品検査分析センター 検査分析課
課長補佐 石渡 智

安全・安心な農産物生産のため

農薬には各作物に対する残留基準値が設定されていますが、その最も低い値は0.01ppmとなっています。この値についてホクレン食品検査分析センターの石渡智課長補佐は「1kgの小ぶりなメロンに農薬の霧が1滴ついても超過になる可能性があるほど厳しい」と言います。

法律上、残留基準値を超えた農産物を流通させることはできません。

「基準値を超えた農薬が検出され、出荷停止や自主回収となった場合、金銭的な被害や産地のイメージダウンにつながります。自主回収にあたって新聞広告費や品代、回収費、廃棄費などで千万円を超えたケースもあると聞いています」

このような事態を避けるため、J‌Aグループでは農薬の使用を記録・開示する「栽培履歴記帳運動」に取り組んでいますが、その科学的裏付けとして行われているのが、自主的な残留農薬検査です。最大260もの農薬成分を度に検査できる方法などを採用しています。

「出荷前の農作物が午前中に届き、それから調製した検体を夕方に分析装置にセット。晩かけて順番に測定し、翌日に検査結果を確認して報告するよう努めています」

1日に検査できるのは十数点なので、収穫の繁忙期には青果部門などと連絡をとり計画を組んで進めているそうです。

基準値超過の主な要因は五つ

こうした取り組みを続けているものの、残念ながら、基準値超過が判明する事案はなくなりません。

「基準値超過の主な要因は五つ。①周辺圃場からのドリフト、②防除器具の洗浄不足、③農薬の誤使用、④土に残った農薬を吸収、⑤コンテナや用具を介した収穫後の付着です。これらは注意を徹底すれば防げます」

出荷後に基準値超過が判明すれば、せっかく築いてきた信頼やイメージが損なわれてしまい、回復するのは容易ではありません。

「農薬のポジティブリスト制度施行は2006年。それから14年経っても基準値超過の事例が見られるのが現実です。大切に育てられた農産物が廃棄されてしまうのは悔しくて悲しい。厳しい基準を常に頭に置き、適正な使用を心掛けていただけたら、と思っています」

残留農薬、基準値超過の5大要因

要因① 周辺圃場からのドリフト

基準値超過の要因で最も多いのは、目的以外の作物に農薬が飛散するドリフトです。
風向きや散布位置に注意し、必要に応じてドリフト低減ノズルなどを使用しましょう。周辺の圃場に気を配り、近隣生産者への声かけも忘れずに。

ドリフトの主な防止法

ドリフト低減ノズルで散布
ドリフト低減ノズルで散布
作物の近くから散布
作物の近くから散布
風のない時を選んで散布
風のない時を選んで散布

要因② 防除器具の洗浄不足

前回使用した薬剤が器具に残留していたことが要因となり、適用外農薬が検出された事例もあります。
「タンクに水を貯めて循環させてから排出」を3回ほど繰り返しましょう。ブームやノズルの洗浄も大切です。

要因②  防除器具の洗浄不足

 

要因③ 農薬の誤使用

トマトとミニトマト、大豆と枝豆などを誤認して使用したり、希釈倍率を間違えたりするケースもあります。
農薬のラベルの適用作物や使用量をよく確認してから使用しましょう。分からないことはJAやメーカー、指導機関に確認を。

要因③  農薬の誤使用

 

要因④ 土に残った農薬を吸収

育苗をした後のハウスにほかの作物を植えたことで、育苗中に使用して土壌に残っていた農薬が、その作物に移行してしまう場合もあります。
育苗時にハウス内で防除を行った場合は、後作物の栽培を控えましょう。

要因④  土に残った農薬を吸収

 

要因⑤ コンテナや用具を介した収穫後の付着

農薬や防除器具を運んだトラックの荷台を洗わずにコンテナを置き、収穫・選果作業を行ったため、それを介して農薬が作物に付着し、検出されたことがあります。農薬に触れた手や容器で収穫物を扱わない。用具の保管も別にしましょう。

要因⑤コンテナや用具を介した収穫後の付着