化学農薬に頼りすぎない

総合的な防除対策の考え方とは?

キーワード:農薬

総合的な防除対策の考え方とは?

中央農業試験場の予察診断グループは「北海道病害虫防除所」と共同で、病害虫の発生動向を調査する「予察」を行い、必要な防除についての情報を提供しています。農薬だけに頼らない総合的な防除について教えてもらいました。

この記事は2020年6月1日に掲載された情報となります。

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構 中央農業試験場 病虫部 予察診断グループ(当時) 研究主幹 岩崎 暁生さん

地方独立行政法人 北海道立総合研究機構
中央農業試験場 病虫部
予察診断グループ(当時)
研究主幹 岩崎 暁生さん

農薬だけが防除じゃない!

私たちはつい防除イコール農薬散布と思ってしまいがちですが「もっと広く捉える必要がある」と言うのは、中央農業試験場病虫部予察診断グループの岩崎暁生研究主幹。「農薬だけで病害虫被害がなくなるわけではない」と話します。

「農薬使用の増加に伴って、害虫では抵抗性の発達、天敵の減少などの問題が起こり、農薬で十分な効果が得られないケースも生じてきました。その反省の上にでてきたのが『総合的な防除』の考え方です」

総合的な防除とは、農薬に加え、耕種的防除、物理的防除、生物的防除など、さまざまな技術を組み合わせて防除効果を高めようという手法です。

「総合的な防除というと難しいイメージですが、耕種的防除は輪作や排水性の改善など以前から行われてきたものもあります。自分が利用可能な技術を組み合わせて効果を上げると考えればいいでしょう」

総合的防除の考え方

農薬による防除(化学的防除)だけではなく、いくつかの防除技術を組み合わせて、病害虫や雑草を管理していこうという考え方です。

化学的防除

殺菌剤や殺虫剤など、化学薬剤(農薬)を使用して防除を行うこと。「防除」というと、通常はこの「化学的防除」だけをイメージしてしまいますが、農薬だけに頼るのは禁物です。

耕種的防除

病害や虫害を防ぐための栽培上の工夫のことです。土壌病害を防ぐ輪作やハウス内の換気、圃場の排水性改善、栽培時期の調整など。古くから経験的に行われてきたものもあります。

●耕種的防除の実例
春播き小麦の播種時期をできるだけ早くすることで越冬するムギキモグリバエの被害を抑える。

物理的防除

害虫を手で捕殺するのも物理的防除の一つです。作物に不織布やネットをかける、熱・光・色・音などを使うことなどで害虫の行動を制御したり、機械や資材で被害を防ぐ方法です。

●物理的防除の実例
高設栽培いちごのアルコールを利用した還元消毒。光による害虫の行動制御など。

生物的防除

病原菌や害虫の天敵となる微生物や昆虫などを導入し防除を行う方法です。ネグサレセンチュウ密度低減にマリーゴールドやヘイオーツなどの緑肥作物を導入するのも生物的防除です。

●生物的防除の実例
きゅうりのハウスでのアブラムシ対策に天敵のコレマンアブラバチを放す。

輪作も適期播種も防除の一種

総合的な防除の参考になるのは、北海道病害虫防除所のホームページで公開されている「北海道農作物病害虫・雑草防除ガイド」です。道内の主要作物の主な病害虫ごとに防除方法が示されています。たとえば麦類の立枯病なら「連作を避ける」「適期に播種する」「土壌pHを調整する」など、基本的な注意事項が耕種的防除としてリスト化されています。

「土壌を還元状態にする物理的防除や、ハウス内に害虫の天敵を放飼する生物的防除、害虫の初発を確認するためのモニタリングプラントやトラップなど、さまざまな技術が提案されていますが、最も大事なのはやはり基本的な耕種的防除。私はなかでも輪作年数の確保が重要だと思います」

一戸当たりの耕作面積が増えていることもあり、比較的手間がかからない小麦が過作になりがちですが、徐々に環境が悪化して、いずれ土壌病害が出るかもしれません。

「人間も病院の薬を飲んだり、漢方薬やサプリをとったりしていれば健康になるかといったら、そうじゃない。薬以外にもバランスのいい食生活や基本的な生活習慣が大事ですよね。農作物も同じだと思いますよ」

総合的な防除はコツコツ続ける健康づくりだともいえるでしょう。