社会保険労務士さんから学ぶ「労務管理」シリーズの2回目は労災保険をピックアップ。労災保険の基本は農業従事者ならばしっかりと押さえておきたいところです。
この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。
北海道SATO社会保険労務士法人
社会保険労務士
課長 髙 正基さん
北海道SATO社会保険労務士法人
特定社会保険労務士
係長 小原 大治さん
北海道SATO社会保険労務士法人
企業経営を多角的にサポートするSATOグループ企業。グループのネットワークを生かし、北海道では札幌、旭川、函館の3拠点で労務管理に特化したサービスを提供中。
1 加入の決まり
労災保険は事業主負担 雇用保険は双方で
農業における労働保険と社会保険の加入に関する決まりは、表1の通りです。労働保険の労災保険と雇用保険の違いは、前者が通勤を含む業務上のけがや事故などに対する保険給付であり、後者は失業保険や育児休業中の基本手当てなど労働者の雇用の安定に関するセーフティネットになっています。労災は事業主が保険料を全額負担し、雇用保険は国が定めた割合に基づき事業主と労働者双方が負担します。(髙さん)
2 背景
高齢化、機械化で増えている農業の労働災害
近年、国内の労働災害数は各産業で減少傾向にありますが、残念ながら農業に関しては逆に増えている現状です。その背景には労働者の高齢化や作業の機械化、経験不足の労働者の雇い入れなどの要因が挙げられています。業種ごとに定められている労災保険の保険料率も、農業は「1000分の13」(例えば従業員に支払う賃金総額が年間1000万円の場合は保険料13万円)と他の業種に比べて高く設定されていますが、それは裏を返すと有事の時に手厚い補償が受けられる証しです。危機管理や安全教育がマニュアル化しづらい農業の経営者こそ、労災の恩恵を強く実感できると思います。従業員5人未満の個人事業主の方もぜひ前向きにご検討ください。(小原さん)
3 給付内容・特別加入
日雇いでも適用となる労災保険 経営者のための特別加入制度も
もう少し詳しく労災保険の補償内容を見ていきましょう。下の労災保険の主な給付内容の通り、けがや病気の療養、休業などケース別の給付内容が明示されています。よくある質問ですが、労働者の勤務期間は関係ありません。1日だけの短期労働者が農作業中にけがをした場合も労災は適用されます。他に、ご自身も現役で働いている経営者のための労災保険、「特別加入制度」もあります(表2)。もちろん民間の保険もありますが、国が定めた労災保険の信頼感は別格です。従業員のために、そしてご自分のために、通常の労災と特別加入をセットで考えてみてはいかがでしょうか。(髙さん)
4 心得
うちは大丈夫! と思わずに
労災は、出向や派遣など働き方によって誰が責任を担うかが異なります。例えば、企業研修の一環として労働体験に来た人が畑でけがをした場合は、企業側の労災が適用されます。雇用形態ごとに労災の適用条件を確かめることをお勧めします。(髙さん)
一般に労災事故が起きてしまうと、中小企業は深刻な経営危機に陥ることも考えられます。ましてや農業はそのリスクが他業種よりも高めです。『うちは大丈夫』と思わずに『誰にでも起こりうる』と意識することが、安全管理の第一歩。労災加入と、更に余力があれば作業手順を見直すなど安全意識を高めて、これからも事故のない農作業を継続してほしいです。(小原さん)