知っておきたい農業の労務管理 ❶

人を雇うための契約と規則

キーワード:労働力

人を雇うための契約と規則

営農に欠かせない「労務管理」について学ぶ3回シリーズ。初回は求人を出す時に大事な雇用契約や就業規則について社会保険労務士のお二人にお話を伺いました。

この記事は2021年12月1日に掲載された情報となります。

北海道SATO社会保険労務士法人 社会保険労務士 課長 髙 正基さん

北海道SATO社会保険労務士法人
社会保険労務士
課長 髙 正基さん

北海道SATO社会保険労務士法人 特定社会保険労務士 係長 小原 大治さん

北海道SATO社会保険労務士法人
特定社会保険労務士
係長 小原 大治さん

北海道SATO社会保険労務士法人
企業経営を多角的にサポートするSATOグループ企業。グループのネットワークを生かし、北海道では札幌、旭川、函館の3拠点で労務管理に特化したサービスを提供中。

 

1 労働条件
働く側に不安を与えない労働時間・休日に応募が集まります。

「求人を出す時はまず労働条件を決めること。天候に左右されやすい農業は、労働時間・休憩・休日など、労働基準法が適用されない『農業における適用除外項目』がありますが、それらが明記されていない求人には不安を感じて応募しづらいもの。般企業と同じような労働時間や休日の設定をお勧めしています。6次産業の場合は同じ雇用主でも食品加工や飲食業などの事業ごとに雇用契約を結ぶと良いでしょう」(髙さん)

労働条件

2 給与
5原則を守って。「現物支給」「2カ月まとめて」は×

労働基準法第24条には「賃金支払いの5原則」が定められています。

1 通貨
現物支給は禁止。

2 直接払い
労働者本人に支払うこと。

3 全額払い
住民税や社会保険等の控除は可能です。

4 毎月払い
「2カ月分まとめて」はNG。毎月1回以上支払う必要があります。

5 定期日払い
「毎月20日」など決まった日に。「毎月第3何曜日」は×。

残業代の割増賃金に関しては前述の「農業における適用除外項目」に含まれますが、いい人に来てもらうには盛り込んでおきたいところです。

給与

3 雇用契約書 就業規則
10人以上は作成義務がある就業規則 ルールを決めて心を一つに!

「家族経営の農家さんの求人はこれまで、ご親戚や友人知人に口頭でお願いすることが多かったと思います。ですが現在の高齢化や慢性的な人手不足を考えると、今後は雇い入れる機会が増えていくはず。そういう時は雇用契約書を書面で交わすことが大切です。また、常時10人以上の従業員を雇用する農家さんは、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署に提出する義務があります。就業規則は会社のルールブックです。例えば労働者に業務の怠慢があり懲戒処分を下す時も、就業規則があればそれが判断の根拠となります。更には会社の方向性や大切にしたい方針を明文化しておくことで従業員と心をつにできるのも、就業規則を作る大きな利点です。基本となる規則と信頼関係の両輪で、お互いに快適な雇用関係を築き上げていってください」(小原さん)

雇用契約書 就業規則

4 求人広告
情報量たっぷり!ハローワーク

労働条件を決めたら、次は求人情報を発信するステップです。現在は農業専門の求人サイトもある時代ですが、髙さんたちは手始めにハローワークでの求人を勧めます。

「その理由はまず掲載料が無料であること、そして記入できる情報量が非常に多いところも魅力です。にもかかわらず仕事内容を『収穫作業全般』と言で済ませてしまってはもったいない。具体的な仕事内容や職場・同僚の雰囲気など詳しい情報の発信が同業者との差別化にもつながります。そうして出来上がった求人情報をそのまま自社サイトやSNSでも発信すれば、更に応募範囲が広がります。コロナ禍で他業種の求人が少ない今、農業にとっては追い風が吹いています。皆さんがいい人材を獲得できるよう、基本を押さえた求人活動を応援しています」