農研機構で長く気候変動の研究に携わり、昨年秋に発行された『北海道の最新農業気象』を監修、執筆した広田先生。「北海道をはじめ日本の気候は、海洋の10年規模変動の影響を受けている」と説明します。
この記事は2022年6月1日に掲載された情報となります。
九州大学大学院農学研究院 広田 知良 教授
(前農研機構北海道農業研究センター寒地気候変動グループ長)
近年の北海道の気候の変化は、地球温暖化の影響だけではありません。15〜20年周期で起きている東太平洋熱帯域の海面水温の変動が大きく関連していると考えられています。
01 冷害が減る一方、気象災害は多様化
北海道の農業は冷害をいかに克服するかがテーマでした。20世紀の間はほぼ3年に1度の割合で冷害が起きていたからです。ところが1998年頃から頻度が少なくなり、2009年を最後に冷害が起きていません。一方で、高温や日照不足、台風など、多様な気象災害が生じるようになってきました(図1)。
背景として考えられるのは、地球温暖化と海洋の10年規模変動です。1998〜2014年はラニーニャ現象の目立った時期でした。東太平洋の海水面温度が低くなり、海が大気の熱を吸収して地球温暖化が停滞したと考えられています。
2014年前後からはエルニーニョが頻発し、地球全体の気温が上昇しています。海水面の温度が高くなり、海が大気の熱を吸収しづらいため、気温が上昇しているのです。1998年から続いたラニーニャの頻発傾向が2015年以降エルニーニョ傾向にシフト。気候が大きく変化したと見られています。
青は水稲冷害年、赤は冷害以外の気象災害年(2010年以降)。北海道の夏の気温は年々上昇傾向にあり、冷害が減る一方、台風や高温などの気象災害が頻発しています。
02 気候の長期的傾向を視野に入れて対策を
ラニーニャの場合、北海道は冬が低温で春先の気温も低くなりがちです。反対にエルニーニョでは冬が暖かく、春先も暖かくなります。実際に3〜5月の3カ月平均気温は2015年以降7年連続で平年より高くなっています。これは観測記録では過去に例のないことです。
春先が暖かいため作物の初期生育が良好で、そのまま推移すれば豊作になりやすい傾向があります。ただし、エルニーニョの場合、夏(特に8月)は高温が生じにくく、どちらかといえば曇りがち。2016年は台風、2018年は長雨と日照不足など、2年に1度くらいの割合で気象災害が起きています。
こうしたエルニーニョ傾向は、過去の海洋変動パターンから見て2030年ごろまで続くと予想されます。冷害に対しての警戒も引き続き緩めてはいけませんが、今後は日照不足や長雨と多雨に、より警戒が必要となるでしょう。
北海道の最新農業気象
気候変動に対する営農技術最前線
気候変動に伴う農業への影響を多角的に考察し、対策強化を図る先進的な農家の取り組みも紹介しています。
発行:北海道協同組合通信社 3,981円(税込み)