生育観測から病虫害の検出まで

ドローン空撮画像を活用したリモートセンシングの最前線

キーワード:スマート農業農研機構

リモートセンシングとはセンサーを使って離れた場所から対象の状態を調べること。農業ではこれまで衛星画像の解析が中心でしたが、近年はドローンによる空撮画像の活用が進んでいます。

この記事は2020年10月1日に掲載された情報となります。

農研機構 農業情報研究センター 画像認識チーム長 杉浦 綾(りょう)さん

農研機構 農業情報研究センター
画像認識チーム長 杉浦 綾(りょう)さん

Profile:2006年北海道大学大学院農学研究科修了。同年、農研機構に採用。九州沖縄農業研究センター、北海道農業研究センターを経て、2020年4月より農業情報研究センター画像認識チーム長。

上空から圃場を観察する

9年前、北海道農業研究センターの芽室研究拠点に赴任した杉浦さん。広大な圃場の状態を効率的かつ客観的に把握する方法はないかと考えました。

上空から圃場を撮影するにはドローンが最適だと思ったものの、当時は1機1千万円以上。ホームセンターで部材を買いマルチコプターを自作したのが研究の始まりでした。

「衛星画像は雲があると畑が写りませんが、ドローン空撮は雲の下で撮影できます。画像もすぐに手元で見られ機動性にも優れています。ただし広い範囲の撮影は衛星画像にはかなわない。衛星画像とドローン画像は短あってそれぞれ必要な技術だと思います」

作物の生育状況を把握

ドローン空撮に使うカメラは2種類。般的なデジタルカメラ(RGBカメラ)と、人間の目では見えない近赤外線の画像を撮影できるマルチスペクトルカメラです。

「健康な植物体は葉の表面で近赤外線を強く反射するんです。逆に枯れた葉はあまり反射しなくなる。この性質を利用して作物の生育の良否を判断する植生指数(NDVI)が衛星画像の研究で既に考案されていて、これをドローンで撮影した近赤外線の画像に適用すれば生育状況が判断できます」

一方、デジタルカメラでは衛星画像より精細な画像を得られるので、作物の大きさを判断できるそう。

「ドローンで平行移動しながら連続的にシャッターを切ると、二つのカメラから捉えたのと同じ。人間が両目で見て距離感を得るのと同じ理屈で、二次元の撮影画像から三次元の情報を復元できます。つまり画像解析で作物の高さや大きさが分かる。ここは生育が悪い、ここはよく育っている、そういう観察も可能です(図2)」

ドローン空撮画像からの三次元情報の復元
図2.ドローン空撮画像からの三次元情報の復元

病虫害の発生も検出

病虫害の早期発見にも役立ちます。「たとえば馬鈴しょの疫病は感染すると葉が黄色になるので上空から捉えやすい」と杉浦さん。将来は病気の兆候を事前にとらえて発生を予防できるようにするのが目標です。

ほかにも雑草の繁茂状況を調べたり、自然災害時に農地の被害状況を迅速に把握したり、土地の高低差を埋めて平らにするのに必要な土の量を推定したり、水のたまりやすい圃場の窪みを見つけたりと、ドローンの空撮画像の活用範囲はまだまだ広がりそうです(図3)。

ドローンによるセンシングの例
図3.ドローンによるセンシングの例

農薬散布ドローンとの連携も

杉浦さんがいま圃場の撮影に使っているのは固定翼ドローン(図1)。

固定翼ドローンによるセンシング(イメージ)
図1.固定翼ドローンによるセンシング(イメージ)

「マルチコプターはワンフライトの飛行時間が15分程度で、撮影できるのは3〜4ha。方、固定翼は1時間くらい飛べて100haほどの広範囲を撮影できます」

撮影した画像をつなぎ合わせて圃場のマップをつくるソフトが既に市販されているほか、画像を送ればマップに加工してくれるクラウドサービスもあるとか。

今後は地域をまとめて撮影し、生産者それぞれのスマートフォンやタブレットにその日の畑の画像が届くようなサービスが生まれる可能性もあります。病虫害や雑草を上空から見つけ、農薬散布ドローンと連携してピンポイントで防除するような低コスト技術が実現する日も近いかもしれません。