土壌分析に基づくちょうどいい施肥

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土壌分析に基づくちょうどいい施肥

適正な施肥は生産コストを下げ、収穫物の品質を向上させます。土壌分析をベースにした適正な施肥について技術普及課の加藤技師補に聞きました。

この記事は2022年2月1日に掲載された情報となります。

ホクレン 資材事業本部 肥料農薬部 技術普及課 加藤 真也 技師補

ホクレン 資材事業本部
肥料農薬部 技術普及課
加藤 真也 技師補

肥料のやりすぎは品質低下だけでなく環境に悪影響を与えてしまう

北海道農政部が発行している「北海道施肥ガイド」(本誌12ページ参照)では、地域や土壌ごとに基準収量と、そのために必要な肥料の成分量が示されています。ただし、この数値はあくまで標準的な収量を目安にしたもの。最大収量を狙って肥料を多めに与えたり、地域で独自の施肥基準を設定したり、それぞれ工夫しているかもしれません。

気を付けてほしいのは、必要以上に肥料を与えても必ずしも収量アップには結びつかないということ。むしろ品質の低下を招き、環境に悪影響を与える恐れもあります。作物が吸収しきれなかった余分な窒素が地下水に影響を与えるなど将来的な環境負荷も心配です。

肥料の主な原料となる鉱物は限りある天然資源なので、北海道農業の持続的な発展のためにも無駄使いは禁物。私たちの世代で使い過ぎたり、余分な養分を蓄積し過ぎたりしないように意識しなくてはなりません。

肥料価格上昇が予想される中、できる範囲から適正施肥(減肥)を始める

肥料価格はいま世界的に高騰しています(図1)。肥料は国内で製造されているとはいえ原料の多くは輸入に頼っており、輸入原料価格の大幅な上昇が価格を押し上げています。道外では春と秋に作付けする地域が多いので肥料価格を年に2回発表していますが、昨秋の肥料価格は気に2割近く跳ね上がりました。北海道でも11月以降の出荷分に対し令和3肥料年度で原料価格が期中改定され、ホクレン取り扱い主要化学肥料の平均で当初より9.7%値上がりしています。

輸入肥料原料価格の推移
図1. 輸入肥料原料価格の推移

ホクレン仕入価格は値上がりしますが、年間本価格の維持に備え積み立てしている「肥料協同購入積立金」の取り崩しを前提に供給価格を据え置いています。しかし、6月からの令和4肥料年度については影響は避けられません。なるべく節約し生産コストを抑える配慮が必要です。とはいえ、やみくもに肥料を減らすわけにはいきません。土壌分析をしたうえで、データに基づいた肥料の減らし方を考えましょう。

肥料を変えると収量が落ちないか、不安に感じるのは当然だと思います。まずは無理のない範囲から試してみてはどうでしょう。例えば、部の圃場で減肥して問題なさそうなら翌年、面積を広げてみる。気に減らすのではなくて中間的な減肥銘柄を使ってみる。リン酸もカリも減らすのではなく、まずカリから減らしてみるなど、自分のできる範囲から段階的に少しずつ取り組んでほしいと思います(図2)。

段階的な減肥の事例
図2. 段階的な減肥の事例

肥料を効率良く使うために土壌分析を活用する六つのポイント

良い土かどうかは、見た目で判断できない

良い土の条件は「作物の生育を阻害しない」「作物の生産性が高い」ことです。土の硬さや作土層の厚み、適度な水持ちや排水の良さなどは、土を触ったり雨後の水の引き具合を見たりすればある程度分かりますが、酸性度(土壌pH)(表2)や養分状態は見た目だけでは判断できません。生育に適した土壌pHは品目によって違います。土壌は雨や肥料によって酸性化が進みますが炭カルなどで改善が可能です。

土壌pHの基準値(北海道施肥ガイド2020より)
表2. 土壌pHの基準値(北海道施肥ガイド2020より) ※テンサイそう根病、ジャガイモそうか病の常発地では5.5。

土の実力を知るには「土壌分析」が必須

圃場の状態を確かめるには土壌分析が不可欠です。土壌分析はいわば土の健康診断のようなもの。目標とする土と比べ、リン酸やカリなどがどのくらい高いか低いかを把握したうえで、過不足を調整する施肥設計を行います。人間に例えるなら、体重が気になるから食べる量を減らすとか、足りない栄養を補うとか、食事を調整するのと同じこと。土壌分析によって作物の生育に適した土づくりと適正な施肥設計が可能になります。

土壌分析を基に減肥しても収量への影響は少ない

土壌分析の結果、リン酸やカリが豊富であれば、その分肥料を減らすことができます。肥料を減らすと収量も落ちてしまうのでは、と不安になるかもしれませんが、これまでに全道各地で行った試験では土壌分析に基づいてリン酸とカリを減肥しても収量や品質に変わりはありませんでした。必要以上に与えても収量は増えないばかりか、逆に品質を落としてしまう場合もあります。

土壌分析に基づく減肥試験の例 2020年度施防協試験 水稲
図3. 土壌分析に基づく減肥試験の例 2020年度施防協試験 水稲(アグリポートVOL.32より)

土壌分析に基づき適正に減肥しても慣行区と同程度の収量・品質になりました!もちろん肥料コストを下げることもできます。

土壌分析をもとに肥料のダイエットを

土壌分析の結果が出たら「北海道施肥ガイド2020」の基準値と比較してみましょう。どの数値がどれくらい高いか低いかが明らかになります。もし稲わらや堆肥など有機物を入れているのであれば、その有機物由来の養分を踏まえて、更に減肥につなげることも可能です。土壌分析を踏まえた必要な肥料養分の算出法、実際の肥料の選び方などは7ページを参照ください。肥料のダイエットは、そのまま生産コストの低減に直結します。

土壌分析結果は3〜4年使えます

肥料は安定供給を図るため予約に基づき製造します。よって、早期予約が欠かせません。地域によって異なりますが、前年の夏から秋に取りまとめを行うJ‌Aが多く見られます。収穫後に土壌サンプルを採取して土壌分析を申し込むと、次の年の春までには結果が得られます。この時は既に次の年の肥料を準備済みなので、まずは施肥量増減の検討に使いましょう(図4)。

夏になると、その次の年の肥料取りまとめが始まりますので、ここで銘柄変更を含めてじっくりと検討する材料として活用しましょう。

土壌分析と購入肥料のサイクル例
図4. 土壌分析と購入肥料のサイクル例

土壌養分は毎年大きく変わるものではないので土壌分析は3〜4年に一度の頻度で行いましょう。定期的にチェックすると土壌の変化が分かり、施肥効果の検証にも活用できます。

肥料を変えるだけでなくトータルな対策を

土壌改良のさまざまな対策のうち、土壌分析に基づく施肥改善は比較的手軽に取り組めます。pHが低ければ炭カルを加えたり、リン酸やカリが蓄積していれば使う肥料を変えてみたり、取り組みやすいところからチャレンジできるのではないでしょうか。

しかし、土壌化学性の改善だけで全てが解決するわけではありません。作物の安定生産には、排水性や根張りといった物理性の改善や、輪作による土壌病害の回避、草地であれば草地更新のタイミングなど、総合的な対策が必要です。土壌分析の活用に加えて、これらの対策も考えトータルに経営の安定化を図りましょう。

肥料を変えるだけでなくトータルな対策を