この記事は2020年2月1日に掲載された情報となります。
不安を抱く方も多い農福連携の取り組み。しかし京丸園への取材で聞こえる声の多くは「意識が変わった」「作業の現場が明るくなった」というもの。ここでは同社が考える「ユニバーサル農業」について、代表の奥さんでもある鈴木緑さんにお聞きしました。
京丸園株式会社 総務取締役 鈴木 緑さん
Q.仕事を担ってもらうために最初にすることは?
A.まずは作業分解から始めます。
難しい仕事も細分化すればシンプルな作業の組み合わせになります。進め方を工夫したり、機械を導入すれば一人ひとりに適した仕事が見つかります。
例えばピンセットを使う細かな仕事や複雑なことはできなくても、検品(写真1)やパック詰めを担当してもらえばいい。細かく仕事を分解すれば障がいがあっても「できること」はたくさんあります。
Q.どのように担当する作業を決めていますか?
A.作業のナビゲーションマップを作成しています。
作業を分解し、難易度で分類したナビゲーションマップを作成(図1)。
これを参考にして本人の希望を前提にできることを見据え、担当する作業を決定します。また、障がいの種類や個々の性格にも配慮しています。作業指導は障がい者が所属する「心耕部」のスタッフが担当し、時間をかけ丁寧に教えます。
Q.作業の指示はどのようにしていますか?
A.具体的に指示をしています。
ベテランのパートさんならば「空いたトレーをきれいに洗って片付けて」という簡単な言葉で仕事をこなしてくれるかもしれませんが、農作業未経験の障がい者では、そうしたあいまいな指示ではダメです。「きれいに洗う」ということを「スポンジで5回こすって」、「片付けて」を「Aの位置に10個ずつ重ねて置く」というように指示しています。作業指示とは具体的で、なおかつ相手に伝わらなければ意味がないと考えています。
そうした作業指示を的確に行い、迷うことなく作業できるように、作業場の各所にラベルを設置(写真2)するなど現場での工夫もしています。
Q.障がい者の採用の際に心がけていることは?
A.周囲の人からの情報も大切です。
せっかくの採用が「いい縁」になるようにミスマッチは防がないといけません。そのため、福祉施設や就労支援機関など障がい者を見守ってきた方々に相談し、「どんなことが得意か」といった情報をもらっています。これらを参考にしながら採用可否だけでなく、任せたい仕事内容も決めています。
Q.賃金はどのように決めていますか?
A.作業能力に応じて決定します。
例えば定植作業の場合では、「一時間に何本植えられるか」を一般的なパートさんを100として考え、障がい者ができる割合を目安に、能力に応じて決めています。最初は障がい者雇用に係る制度も利用しながら※、スキルアップに応じた賃金アップも行っています。
※最低賃金以下の時給になる場合は、最低賃金の減額の特例許可申請(労働基準監督署)が必要となります。
Q.農福連携導入で留意すべき点とは?
A.双方がウインウインになることが大切です。
「安価に仕事をしてもらえる」という身勝手な発想はもちろんですが、「障がい者のためになればいい」という安易なボランティア精神もプラスには働きません。仕事がきつくて給与が低ければ長く仕事をしてもらうことはできませんし、だからといって経営面を考慮しないと、収支が合わなくなって続けていけません。
農福連携は持続させることが重要。双方がウインウインになることを目指すべきだと思います。