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肥料の基礎知識⑦~土壌有機物と腐植

キーワード:品種技術土壌有機物施肥肥料腐植
肥料の基礎知識⑦~土壌有機物と腐植
写真1.土壌断面と腐植の例
※作土を比較すると、左の圃場は右の圃場よりも土が黒く腐植が多い。左の圃場でも、下層土は黒色が薄く腐植は少ない。

 

この記事は2019年12月1日に掲載された情報となります。

 

ホクレン 肥料農薬部 技術普及課

 

POINT
❶腐植物質には、肥料養分の保持や有効化、作物生育促進などの働きがあります。
❷堆肥が十分施用されていない圃場などでは、腐植酸資材施用が有効です。

 

土壌有機物と腐植

土の色は圃場によって、また、作土と下層土でも異なりますが、「腐植」は土の色、特に黒さに大きく関わっています(写真1)。

腐植は、「土壌中の有機物」と言い換えられることがよくあります。土壌中には微生物や植物の根、動植物の遺体などさまざまな有機物が存在しますが、有機物が微生物などによる分解を受けて再合成された黒色の高分子有機物の混合物を「腐植物質」といいます(図1)。

 

図1.腐植物質ができるまで
図1.腐植物質ができるまで

 

土壌中の腐植含量は土壌分析で調べることができます。また、土の黒さによってもある程度判定できます。

 

腐植物質の働き

①養分の保持と土壌の緩衝力を大きくする

腐植物質は、土壌中の養分(陽イオンや陰イオン)を保持する働きがあります。腐植の多い土壌は、養分を保持する力(肥料持ちの良さ)が大きくなります。また、急激なpH変化をやわらげる緩衝力も大きくなります。

②有害物質の影響を抑え養分の有効性を保つ

腐植物質は、作物の根に害を与えるアルミニウムなどと結合しやすいことから、そうした害やリン酸固定を抑え、リン酸の有効性を保ちます。

③作物の生育促進

腐植物質のつである腐植酸やフルボ酸は発芽や発根、生育促進効果をもちます。植物ホルモンに似た作用を示したり、作物に吸収されにくい養分が腐植と結合することで吸収されやすい形態になる(キレート作用)ためといわれています。ただし、効果の発現には十分な施用量が必要です。

④団粒の形成と土壌構造の安定化

土壌粒子同士の接着剤としての働きをもち、団粒形成を促進して土壌の通気性や保水性、排水性を良好にします。

 

腐植酸資材の特長と効果

腐植酸資材(図2)は、腐植酸を多く含む亜炭(石炭の一種)などから精製され、土壌の肥料持ちや根張りの向上が期待でき、作物の養分吸収を助けます。

 

図2.腐植酸資材の例
図2.腐植酸資材の例
(アヅ・リキッド413、アグロリグSCの潅水量は慣行栽培に従ってください)

 

粒状の腐植酸資材「アヅミン」は、保肥力の改善につながる土壌改良資材として、地力増進法に基づき認められているもので、40㎏で堆肥1‌t分の腐植酸が含まれています。ホクレンではアヅミン入りの化成肥料やB‌B肥料も取り扱っています。

液体腐植酸資材では、アヅミンの腐植酸を添加した液肥「アヅ・リキッド」や、亜炭から得られた腐植酸などの濃縮懸濁液である「アグロリグS‌C」なども利用されています。

これらの資材は早い段階からの根の生育促進を目的に、生育初期の施用がより効果的です。本年、「アグロリグS‌C」を用いた根箱試験でも、根の生育が良くなったことが確認されています(写真2)。

 

写真2.アグロリグSCの生育促進効果を確認した根箱試験での根の状況
写真2.アグロリグSCの生育促進効果を確認した根箱試験での根の状況
※さやいんげんを用い、より低コスト化をねらい1,000倍と2,000倍に希釈したアグロリグSC100L/10a相当を播種時(2019年6月11日)に土壌散布。調査は7月30日。ホクレン長沼研究農場で実施。

 

これらの腐植酸資材は、堆肥等の有機物とは異なり直接的な物理性改善効果はありませんが、堆肥の入手が難しく十分施用されていない圃場や、土壌中の腐植含量が少ない圃場などに有効です。

土壌中の腐植物質は長い年月をかけて生成・蓄積されるものです。営農によって短期的に大きく増減するものではありませんが、土壌の腐植の状況などを踏まえ、堆肥や腐植酸資材、肥料の施用などの営農管理に取り組むことが大切です。