この記事は2019年8月1日に掲載された情報となります。
暑い夏、太陽の下で働く農業者にはさまざまなリスク(危険)があります。夏の作業にはどんな危険が潜んでいるのか、そしてどのような対策をとればいいのか、札幌厚生病院の赤池淳先生に伺いました。
JA北海道厚生連
札幌厚生病院 健康管理科
主任部長 赤池 淳 先生
太陽の下で働くリスクとは
札幌厚生病院で健康診断などを担当する赤池淳先生は、夏の炎天下で作業を行う危険性を次のように話します。
「一般的なリスクとしては熱中症、日焼け、夏バテなどが考えられます。医学的な見地から言うと、夏は脱水に伴って脳梗塞が増えます。また、冬場に比べて血圧が下がるので、高血圧のお薬を飲んでいる方は、血圧が下がり過ぎていないか、注意が必要です」
これから最も暑い8月を迎え、炎天下での作業も増える時期ですが、どのようなことを意識すべきでしょうか。
「特に気を付けてほしいのは熱中症です。重症化すると命に関わる事態もあるからです。熱中症とは、高温多湿な環境に私たちの身体が順応できないことで生じる、さまざまな症状の総称のこと。暑さで身体がだるい、食欲がなくなるといった夏バテは病気ではありませんが、広い意味では熱中症の一部と考えていいでしょう」
熱中症のニュースをよく耳にしますが、熱中症の危険性は年々、増しているのでしょうか。
「熱中症が増えてきているのは事実です(図1)。救急搬送の件数も2010年からぐっと増えてきています。小さなお子さんや高齢の方は特に熱中症のリスクが高いので、十分な注意が必要でしょう」
日焼けについても赤池先生はその危険性を指摘します。
「日焼けはシミや色素沈着の原因になるほか、皮膚がんの原因になる場合があります。オゾン層の破壊などで紫外線量が増えていることもあって、皮膚がんも増加傾向にありますので、なるべく過剰な日焼けは避けたほうがいいでしょう」
夏から秋にかけて農業の繁忙期が続きます。体調を崩さずに元気に働くために、危険を回避する方法を考えてみましょう。
熱中症を正しく理解しよう
熱中症は熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病に分類できると赤池先生は説明します。
「熱失神は暑さで血管が拡張し、頭に行くはずの血流が低下したり血圧が下がることで、めまいや立ちくらみが引き起こされます。熱けいれんは、体内の塩分の濃度が低下し筋肉が硬直することが原因。こむら返りがその症状です。熱疲労は、発汗に水分の補給が追いつかず、脱水状態になってしまい、頭痛や吐き気がする状態です。熱射病は、体温が上昇しすぎて中枢神経に異常をきたす状態。意識障害や肝機能・腎機能障害など、いわゆる多臓器不全の状態です。こうなると救命できない場合も少なくありません」
こうした症状を分かりやすくするため、救急医学会ではⅠ・Ⅱ・Ⅲ度と分類して重症度を評価しているそうです(図2)。
それにしても、同じ環境で熱中症になる人とならない人がいるのはなぜなのでしょう。
「人間は汗をかくことで熱を放散し、体温を下げます。なので、体温を調節する機能が発達していない乳幼児や、機能が衰えている高齢者は熱中症になりやすいといえます。また、寝不足で体調が悪い、前日にお酒を飲み過ぎた、朝食を抜いて働いている人などもハイリスク。発熱や下痢で脱水気味の人、もともと持病のある人も注意が必要です」
つまり、この反対に睡眠や栄養をしっかり取り、水分や塩分をこまめに補給することが、熱中症の予防につながるといえるでしょう。
熱中症に備える
赤池先生に、用意しておくべきアイテムも教えてもらいました。
「水分補給に最適なのは経口補水液ですがスポーツドリンクでも良いです。普通の水では、体内の塩分濃度が下がり、逆に塩分濃度を上げようとする反応で更に水分が排出されることもあるため注意が必要です。コーヒーや紅茶のカフェインにも利尿作用があるので、お茶を飲むなら麦茶がおすすめ。ノンカフェインでナトリウムやカリウムなどの電解質も含んでいます。塩分は塩あめやタブレットで補うことも可能ですが、高血圧で塩分を制限されている人は主治医に相談してください」
決して無理をせず、体調を最優先して暑さから身を守りましょう。