月形町
岸上 知明さん・希央さん
「もちろん、計画と実績にズレが生じますが、そのつど修正を図ります」
Profile:岸上知明さんは旭川市出身。大学卒業後、道内の銀行に就職して「中小企業診断士」の資格を取得。融資担当として働いていました。妻の希央さんは札幌市出身。職場で知明さんと出会い、結婚後も子育てしながら銀行員の仕事を続けてきましたが、知明さんの夢を応援しようと退職。一緒に研修を経て月形に来て3年目、譲り受けた80aの農地にハウスを建てて農業経営者として自立。
この記事は2018年12月1日に掲載された情報となります。
初めて農業経営に取り組む新規就農者は、どのように営農計画を組み立てるのでしょうか。銀行員をやめ、2年間の研修を経て2016年に月形町で就農した岸上知明さん・希央さんご夫婦に話を聞きました。
Case Study 小規模でも利益を
安定した経営に向け試行錯誤
2年前、月形町に新規就農した岸上知明さんと希央さん、二人とも銀行員からの転職という異色の経歴です。
最初は米とトマトをつくっている親方の農場で1年間研修し、育苗から管理、収穫、出荷、片付けまでを経験。2年目は実習農場のハウスで資材を揃えながら大玉トマトを自力で栽培し、作業内容や生産量などの目安をつかみました。
そして3年目。農業経営者として自立。譲り受けた80aの農地にハウスを建て、月形特産品のカンロ、夏場は大玉トマトを栽培、畑ではカボチャにも挑戦しました。
しかし、思ったような収入には届かず、4年目、トマトに秋に収穫できる遅植えの低段密植栽培を導入。高収益を期待し塩水を使ったフルーツトマトにも挑戦。夏場の収穫期には知明さんの両親にも手伝ってもらうなど余力のない忙しさでしたが、まだ目標には届きませんでした。
「トマトは10a当たり10トンという収量もクリアしていたし、年中びっちり作業していたので本数を増やす余力は無いと判断しました」
そこで5年目の今年、大玉トマトをミニトマトに変えて栽培。売り上げを去年の1.8倍に伸ばすことに成功しました。
「町内にJAのミニトマトの選果場があるので、選果と箱詰め作業を省ける。収穫作業で手間のかかるミニトマトでも、大玉トマトと同じ本数を管理できました」と知明さん。試行錯誤してきた中、「少し目途がたってきたかな」と安堵の表情を浮かべます。
記録に基づいた作業計画づくり
知明さんはこれまで5年間、毎日どんな作業をしたのか記録してきました。それを振り返ることで、冬の間に来年の営農計画を組み立て、一日単位の細かな作業スケジュールも作るそうです。
「もちろん計画と実績にズレが生じますが、そのつど修正を図ります。ベテランの方は頭の中で組み立てられるのでしょうけど、私の場合、来週にはアレがあるから今週はコレをしないと、と確認しながら進める感じです」
細かく作業記録をつけることで、目一杯忙しい時期と余力のある時期が分かるのもメリットです。
「いっとき忙しくて手が回らなくなってしまうと、全部の作物をダメにしてしまう。計画をつくる時も『絶対にムリをするな』と言う親方の言葉を肝に銘じています」
小規模でも成り立つ経営に
就農直後の経営確立を支援する5年間の給付金※を受けられるのはあと2年。その間に売り上げをアップし、経営を安定させなければなりません。
「農業は何をつくるかも、いつどんな作業をするかも生産者の自由。おもしろい反面、キツさもある。全部ひっくるめて楽しんでやってるつもりです」と知明さん。当面は今の面積(80a)で経営を成り立たせるのが目標です。
一方で、すでに始まっている高齢化や後継者難の中、地域を守っている先輩の方々を間近で見て「共同化なのか法人化なのか分かりませんが、中小企業診断士の資格も生かし北海道農業のあり方に、当事者として関わってみたい」と意欲的です。
※農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)
Lesson03まとめ
●毎日の作業について細かく記録する
●蓄積した作業記録に基づき無理のない計画をつくる
●品目別に収益を分析して、翌年の計画に活用する